2021年5月15日土曜日

宝塚歌劇団への愛を整理する   佐藤文香

ゴールデンウィークは、宝塚歌劇団星組「ロミオとジュリエット」の配信と、宝塚歌劇団OGによる「エリザベート」ガラコンサートの配信を3回視聴した。6月は東京宝塚劇場で花組を見て、その翌週に雪組の全国ツアー公演を見に愛媛へ遠征することになっている。

2020年10月にこの翻車魚ウェブでも、宝塚大劇場へ遠征して月組「WELCOME TO TAKARAZUKA」&「ピガール狂騒曲」、凪七瑠海コンサート「パッション・ダムール」を2回、宝塚ホテルに泊まって彩凪翔ディナーショー「Sho-W!」配信を見て書いた俳句19句「宝塚(ムラ)は秋」をアップした。

追記;この記事をアップした直後に、星組「ロミオとジュリエット」でも8句書いたので載せておきます。




私のことをよく知っている人ほど、どうして私がそんなに宝塚にハマったのか可笑しく思うだろう。小説を読まないどころか映画もドラマも見ない、物語が苦手だと公言して憚らない私が、なぜ宝塚は大丈夫なのか。自分のためにもこの場を借りて整理しておきたい。


まず私は、歌声やダンスをする体といった表現する人体が好きであり、そこから技術の高さや個性を感じることを快楽としている。単に音楽を聴くのが好き、というより、ある曲が声として発される毎回の奇跡を愛している。2019年9月に2度目の星組観劇をし「この人だ」と思ったのは、その前年も星組を見て気になっていた現在のトップスター・礼真琴で、至上の体幹に由来する卓越した歌とダンス、とくに踊りながら・演じながらの歌唱の素晴らしさはこの世の宝である。


↑星組現トップスター礼真琴と、先日惜しまれながら退団した雪組元トップスター望海風斗。近年のトップではこの二人の歌が至高とされる。ちなみにこの状態は「素化粧」といわれ、皆さんの思われる宝塚メイクとは違うすっきりメイクだが、これもまた美しい。私の夫は望海風斗&真彩希帆の大ファンであり、退団公演は私の友人女性2名と別々に2度観劇(私は別で1度観劇)、退団に関連する配信はすべて視聴、Blu-ray BOX等はすべて購入していた。私も大好きだ。


↑現在の星組はトップスター礼真琴と娘役トップの舞空瞳どちらも驚愕のダンス力なので、劇だけでなくショー(一本物と言われる劇+フィナーレの公演と、前半は劇で後半はショーという公演があり、私はショー好き)を見ない手はない。いや、頼むからどこかで一度二人のデュエットダンスを見てくれ。

歌とダンスの両方が優れているジェンヌはみな大好きだが、礼真琴以外だと月組4番手の暁千星、宙組4番手の和希そらなどがとくに好きである。OGでは朝夏まなとも手足が長くてダンスが素晴らしい。歌がものすごくうまい元トップといえば、春野寿美礼、北翔海莉である。

続いて私は、人間の容姿に興味がある。宝塚歌劇団には花・月・雪・星・宙の5組と専科あわせておよそ400名の生徒が在籍しているためさまざまな顔面の人間がいて、毎年刊行される『宝塚おとめ』にはその全員の顔写真や特技、好きな食べ物などが掲載されている。実際の舞台を見たあとにプログラムと照らし合わせるだけでなく、Blu-rayやタカラヅカスカイステージ(専門チャンネル)の番組等で気になる生徒がいたら毎度チェックするのも楽しみのひとつだ。ちなみに現役の男役で私が最も好きな顔は星組の天寿光希、娘役では星組の華雪りらである。


↑天寿光希。下級生から「美しすぎて怒られていても話が入ってこない」と言われている。


↑華雪りら。養子にしたい。

ほかに、宙組組長の寿つかさや宙組二番手の芹香斗亜、雪組の縣千、眞ノ宮るいなども好きな顔だ。パーツのバランスがよく配置が整っているのが好きで、わりと薄め/えらがはっている、なども好みのようである。

その人にしか出せない味わいに耽溺するという楽しみもある。私にとって3度目の宝塚は星組礼真琴トッププレお披露目公演「ロックオペラ・モーツァルト」のライブビューイングで、礼真琴はもちろん素晴らしかった、加えて、サリエリを演じた凪七瑠海にハマることになってしまった。サリエリはまったく笑わない嫌なヤツなのだが、すべての劇が終わったあとにフィナーレがあり、さっき死んだモーツァルトも笑顔で出てきてしまうのが宝塚の面白いところで、そこでにこにこ手を振るサリエリにハートを撃ち抜かれてしまったのである。あんなにモテなそうだったのに!!


↑凪七瑠海。現在は組配属ではなく専科と呼ばれるプロ集団に属し、必要に応じて各組に出演する。来月の自分の誕生日には凪七さんが出演している花組公演を見に行くことになっている。タカラジェンヌは本来男役であっても公演によっては女役をやることもあり、今回の公演「アウグストゥス-尊厳ある者-」において凪七さんはクレオパトラ役とのことで、前評判もめちゃくちゃよく、めちゃくちゃ楽しみである。

私はどうしても、ヒーローやモテ男よりもあまりモテない役が好きで、はじめ礼真琴にハマったときも眼鏡で自信のない姿がよかったというタイプなので、宝塚好きのなかでは少数派だと思われるが、キラキラというよりはいぶし銀的な、マニアックな職人的魅力というものがあり、凪七瑠海のほかでは星組4番手の綺城ひか理が本当に好きなかんじになってきている。花組の羽立光来、退団してしまったが天真みちる、専科で主におじいさんやおじさん役をする汝鳥怜や悠真倫、英真なおきらも好きだ。


綺城ひか理は話も面白い。凪七さんとの共通点は顔が小さすぎることである。

さらにジェンヌたちの素顔および関係性萌え、というものもある。各組の先輩後輩だけでなく、同期入団のかたい結束や、音楽学校時代のお掃除場所の上下関係なども面白い。有名なのは前にも挙げた望海風斗と凪七瑠海、最近OGとして大活躍中の明日海りお・七海ひろきなどの89期、そして現在の星組トップスター礼真琴と花組トップスター柚香光、次に月組トップスターとなる月城かなとらの95期。同期をまとめて推すというスタイルのファンもいるくらいである。
個人的な胸熱ポイントとしては、星組の95期入団トップで順風満帆にトップスターになった礼真琴と、入団時の成績は下位だったがめきめき実力をつけて現在3番手になった瀬央ゆりあ、入団は2位だったが路線には乗らず(トップスターになる可能性のある生徒を"路線"と言い、早くから大きい役を与えられる)実力派として組を支えるひろ香祐の友情である。

演出家によって作品を楽しめるのも面白い。海外ミュージカルや映画、漫画などの宝塚化以外に、宝塚オリジナル作品も多くつくられており、友人から「まずは上田久美子作品を見るように」と言われてそのとおりにしたら本当に宝塚が好きになってしまった。とくにトップスターが奴隷役の「金色の砂漠」(花組)、歴史や物語、言葉の持つ権力について考えさせられる「月雲の皇子 -衣通姫伝説より」(月組)、ショーではグラサン歩きタバコのトップスター「-BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-」(月組)など、単純な悲劇やラブロマンスに括ることのできない作品の数々は、映画や舞台が好きな人には一度は見てほしい作品だ。藤井大介による酒をモチーフにしたショー「Sante!!」(花組)、「アクアヴィーテ(aquavitae)!!」(宙組)も、私がというよりは宝塚ファンならみなオススメであろう。
なかにはトンチキと呼ばれたりする妙な作品もあり、そういうものでも基本的には楽しめてしまうのが宝塚のよさでもある。①〜④をお読みくださった方はおわかりのとおり、あらすじなどあろうがなかろうが、我々は公演が見たい。ロミジュリやエリザベートなど、名作の再演が多いのも、それが理由だろう。我々は誰が・何を・どう演じるかを見に行くわけで、ストーリーの素晴らしさはオプションと言っても過言ではないのだ(いや、それは過言か)。


結局私は人が好きで、人のやる凄いことを感じたいから、宝塚が好きなのだと思う。そして、こんなに具体的なのに、すべてが夢。ほかのことを忘れていられる。宝塚が好きになってから、夢というものがいかに大切かわかった気がする。

衣装やショーの構成の素晴らしさ、各組のカラーやトップスターの個性、路線事情や組替、娘役についてなどまだまだ書きたいことは尽きないが、宝塚歌劇団の素晴らしさと、私がなぜ宝塚ラヴァーになったかが少しでもおわかりいただけたとすれば幸いである。

最後にもうふたつ動画を貼って終わりにしたい。
↑3:00あたりからご覧いただこう。これがショー(レヴューともいわれる)。星組「Ray -星の光線-」。礼真琴のキレキレのダンスは、現状のYouTubeの性能では追いつきそうもない。

雪組元トップ娘役真彩希帆のスペシャルライブ。望海風斗・真彩希帆は宝塚の歴史に残る歌ウマのトップコンビだった。今後の活躍が楽しみである。

  不器男忌の身にあなたとは闇なるを  佐藤文香(「エリザベート」を見て書いた俳句)