2020年5月15日金曜日

013*2020.5



作品
▶︎春の夢  関悦史

作品
▶︎あかるくふるまふ  佐藤文香

散文
▶︎日記(2020.4.15~2020.5.14)  関悦史

散文詩
▶︎唯子  佐藤文香

日記(2020.4.15~2020.5.14)  関悦史

4月15日(水)  
梶尾真治『有機戦士バイオム』読了。  
NHKラジオセンターからの「文芸選評」投句が不在配達になっていた。本局に電話し、出向いて受け取る。  
ドラッグストアを見たがマスクはなお入荷なし。  
つちうら古書倶楽部で古本7点購入。何故か店の入口の分厚いガラス戸が大破し、段ボールが当てられていた。「自粛警察」によるものか。  
「文芸選評」の選句を終わらせる。

 4月16日(木)  
連絡の行き違いなのか日本年金機構からまた封書で納付書一束。コロナ禍の最中に年金支給を75歳からに延ばす審議をされている折であり苛々。そもそも受給年齢まで生きていられまい。

 4月17日(金)  
夢に岸本尚毅さんが出てきたので句にする。  
熊村良雄『歌集 うたふ鰭』読了。  
柿本多映さんから電話。『柿本多映俳句集成』の蛇笏賞受賞が決まったとのこと。今年は新型コロナで受賞式も内輪の祝賀会もできないのが残念。  
緊急事態宣言が全国に拡大されたらしい。

 4月18日(土)  
午前10時過ぎ、「文芸選評」担当者から電話。音声状態のテストと、石井かおるアナとの初の簡単な打ち合わせ。  
固定電話と予備に携帯を両方繋ぎっぱなしにしてNHKラジオ第一「文芸選評」に家から生出演。投句者である10歳の女の子との生電話が入ったのでセクハラ、パワハラ等に取られかねないことを口走らないよう警戒。  
ラジオ出演前から喉の両脇の腱に湿布して多少マシにはなったが、首の凝りがひどい。
尾崎一雄『虫のいろいろ』読了。  
ツイッターで相互フォローになっていた、土浦つくばで「NEWSつくば」なるミニコミ紙に記事を書いている「いとうえつこ」という人から蛇笏賞ツイートへのリプが来て、いとう氏が「風」所属経験のある俳人であり、山崎祐子さんと知り合いであると急にわかった。

 4月19日(日)  
筒井康隆『宇宙衞生博覧會』再読。  
美術家の大岩雄典という人から依頼メール。新型コロナで美術館等も閉まってしまうなか、「電話で聴く」展覧会を企画しているので、10句作って3分以内の朗読音声にしてくれとのこと。  
石川美南『歌集 体内飛行』読了。

 4月21日(火)  
ツイッターに「歴史的瞬間」なるトレンド。原油価格が0ドルにまで大暴落。  
動画を見つつ架空世界を吟行する企画があり、webカメラを入手しなければならないのだが、サトアヤとDMしていて、自分のノートパソコンに内蔵されていたことに初めて気がついた。通話テストもつきあってもらう。  
「円座」のゲラを済ませる。編集担当のOさんにラジオ「文芸選評」を聴かれていた。  
高千穂遙『水の迷宮―クラッシャージョウ11』読了。  
知人医師が追いつめられた感じのツイート。マスク、防護服等、自分の身を守る物資の不足が、かなりの精神的負担になっている模様。

 4月22日(水)  
総合誌用12句のゲラをメール返送。アマビエの句の前書を微修正する。あれは病が流行ったら私の絵姿を見せよとは言っているが、そうすれば病が収まるだろうとは言っていないのだ。  
「電話で聴く」展覧会用の10句を揃え、ICレコーダーに朗読音声を吹き込んで大岩氏にメールで送る。朗読音声の方は聴き取りにくかったのか、俳優・日和下駄氏に録り直してもらうことになった。  
翻車魚ウェブ5月1日用の10句をメール送稿。  
隣のおばさんが来る。今年は回覧板を回す順序が違うらしい。黒白の猫が追いすがってきて鳴く。餌をやっているとのことだった。  
山崎祐子さんとともに調査に来宅したことのある土浦市立博物館の萩谷良太氏から封書で「土浦市立博物館紀要」第30号(2020年3月)3部届く。曾祖父・関勝久の創始した「かすみ人形」について史的背景まで探った論文が掲載されたもの。  
「俳句四季」の座談会ゲラと添削を済ませる。  
大島史洋『歌集 どんぐり』、高千穂遙『ガブリエルの猟犬―クラッシャージョウ13』読了。

 4月23日(木)  
花牧荘(かつての下宿先)に潜んでいて大家のおばあさんに見つかる夢。  
架空世界吟行のための動画共有テスト。こちらの音声が拾いにくいようでwebマイクを送ってもらうことになる。  
タレントの岡江久美子、新型コロナウイルスによる肺炎で死去。  
夏井いつきさんがYouTuberデビューして、広報用らしいツイッターアカウントも始めていた。  
松岡ひでたか『小津安二郎の俳句』ようやく読了。  
「俳壇」のエッセイの初校ゲラを返す。  
YouTubeで「Edge/海は来るー俳句作家 佐藤文香の世界」フルバージョンを見る。適当なロケ先がなかったのか、釣り堀に行っているのが知人から見ると謎。同行した大洗水族館ロケでは、駅前のガルパン看板から私が顔出しした場面まで使われていた。

 4月24日(金)  
郵便局へ。神社の脇の細道が草に少しずつ侵食されている。コロナで通行人が減ったためか。  
マスクが手に入らないまま外を歩いてていると、感染の不安よりも、他の人が皆隠している部位を人目にさらしている露出プレイのような落ち着かなさがある。  
浅田彰氏から記事3本をシェアする一斉メール。
疫病の年の手紙 浅田 彰
 と、開催予定だった杉本博司展にちなむ2本、
写真の終わり ——杉本博司「時間の終わり」展の余白に
江之浦連歌 有時庵(磯崎 新)+呆気羅漢(杉本博司) 。  
東京新聞の松岡ひでたか『小津安二郎の俳句』書評を書きメール送稿。

 4月25日(土)  
悪夢見放題で睡眠ズタズタ。  
見田宗介『現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来』、アルフレッド・ベスター『分解された男』読了。

 4月26日(日)  
小野村と長電話。  
高橋睦郎さんから珍しく電話。特に用があったというより、こちらの状況を気遣ってくれたらしい。  
美術画像の検索で時間を空費。一緒くたのフォルダに入れてあったフラ・リッポ・リッピとフィリッピーノ・リッピ父子の画像を仕分ける。  
歯痛、頭痛。

 4月27日(月)  
高野ムツオさんがツイッター開始。  
そらしといろ『もうずっと静かな嵐だ』、内田樹『ためらいの倫理学―戦争・性・物語』読了。  
「100年俳句計画」の選句選評を済ませる。

 4月28日(火)  
書評の「見本」を確認(担当者も在宅ワーク中心になっているので、まだ紙面どおりに組んだゲラの形になっていない)。  
電話展の音声ファイルやウェブサイトの記載事項の確認。  
今年20周年を迎える某結社誌の鑑賞原稿を半分書く。

 4月29日(水)  
洗濯。古紙整理少し。  
自転車がパンクしていた。自転車屋に持っていったが定休日でもないのに休業中。このままコロナで営業自粛に入られるとライフラインが断たれる。  
徒歩で買い物。自転車なしではあまり荷物は持てない。  
小野市詩歌文学館から封書で小野市詩歌文学賞授賞式等中止の知らせ。ツイッターで短歌部門の選考結果しか流れてこないので、今年は俳句部門は受賞作なしかと思ったが、原満三寿『風の図譜』(深夜叢書社)が受賞していた。  
夜、柿本多映さんから電話。蛇笏賞後、急な〆切が増えた模様。  
某結社誌の鑑賞原稿を終わらせてメール送稿。書くのはすぐだが大量の句を読むのに時間がかかった。  
夜0時過ぎ、大岩雄典氏のツイートで電話で聴く企画展「Emergency Call」開始を知る。050-3628-2168に電話すると、各作家の作った3分以内の音声、合計45分が連続で流れるというもの(開催期間が「緊急事態宣言解除まで」なので5月14日現在まだ続いている。→「Emergency Call」)

 4月30日(木)  
マイ・シューヴァルの訃報。マルティン・ベックシリーズの推理作家。日本のメディアでは報じられなかった。夫のペール・ヴァールーと合作したあのシリーズ、都市文学の傑作でもあるのだが。  
自転車屋に人がいたのでパンク修理を頼む。引き取りは明日。  
散歩。  
つちうら古書倶楽部は割られたガラス戸が直っていた。古本7点購入。  
本田創・高山英男・吉村生・三土たつお『はじめての暗渠散歩―水のない水辺をあるく』読了。  
ツイッター、普段アニメや幻想文学に特化しているアカウントが異口同音に、この国は終わりと悲憤を漏らし始める。

 5月1日(金)  
送られてきたwebマイクを取り付け、架空世界吟行の担当者とZoomやDiscordのテスト。こちらのパソコンが固まってしまう。  
ブログは画像が上がらないエラーが続く。  
修理された自転車を引き取る。パンク修理ではなくタイヤ交換になり5,060円。  
買い物。  
日本現代詩歌文学館から封書で評議員の委嘱状、高橋睦郎さんからマスク数枚同封の封書。  
隆慶一郎『柳生非情剣』読了。

 5月2日(土)  
ブログの不具合復旧。  
隆慶一郎『鬼麿斬人剣』読了。  
また下宿に隠れ住んでいる夢、受話器を取ってもいない電話から祖母の声。  
頭痛ひどい。

 5月3日(日)  
扇風機を出す。  
架空世界吟行の収録日。ZoomとDiscordで動画を見せられつつ次々即吟。  
深夜、山尾悠子『ラピスラズリ』読了。

 5月4日(月)  
柿本さんの蛇笏賞関連記事の50句選を手伝うため、『柿本多映俳句集成』拾遺を通読。  
夜、震度4の地震で接続障害発生。有線のパソコンからのネット接続もやたら重くなる。

 5月5日(火)  
架空世界吟行は別にもう一本収録することになるらしい。   
散歩。  
入ったことのない昭和テイストの駄菓子屋を覗いていたらお婆さんに呼び込まれ、話しつつ駄菓子計285円分購入(もちっとプリン、ポテトフライ、都こんぶ、ピエールおじさんのロールケーキ、きびだんご各30円、コーララムネ25円、バウムクーヘン110円)。客は結構来る。  
つちうら古書倶楽部で古本7点購入。  
買った駄菓子、「ポテトフライ(フライドチキン味、4枚入り)」というのが油っこいが意外と美味。  
藤嶽彰英『一軒宿の温泉』、二見史郎『抽象の形成』読了。  
夜中、警報が鳴り震度4の地震。

 5月6日(水)  
サトアヤとDMで柿本多映50句選の会議。(佐藤注;柿本さんには蛇笏賞受賞にともない角川「俳句」と「現代俳句」両方から50句の依頼が来ており、角川へは柿本さん自身が選句した50句を送稿済み。まったく同じだと面白くないので、とのことで、関さんと佐藤で話し合って7句入れ替えたバージョンを作成し、「現代俳句」の方へ提出予定)  
クラフトワークのフローリアン・シュナイダーの訃報。  ジャン・ジュネ『女中たち バルコン』、井上靖『楼門』読了。

 5月7日(木)  
肩凝りまた悪化。  
スーパーで会計を間違えられる。値下げシールの貼り間違いによる別の品の算入。  
外交評論家の岡本行夫、新型コロナウイルス感染症で死去。  
湯川秀樹『人間の発見―湯川秀樹対談集3』読了。

 5月8日(金)  
悪夢。学内で4,5人が刺殺され事務室に逃げ込んでいたら、Tさんにピストルを向けられ、君を撃たせなさい僕も誰それも自分を撃ったけど大丈夫だったからと言われ、断ったら不機嫌になられた。  
不在配達を本局に受け取りに行ったら黒田杏子さんからで、コロナ減収に対する義捐金を頂いてしまい驚く。「現代俳句」に載った現代俳句大賞受賞のことばのコピーその他いろいろ同封されていたが、主な授賞理由になったらしいインタビュー集『証言・昭和の俳句』が連載中に批判が多かったということは知らなかった。たまたま何枚も手元に残っていたらしい兜太筆の「アベ政治を許さない」のコピーも同封されていた。  
中村猛虎『句集 紅の挽歌』読了。  
米が尽きたままなので、N子さんにもらった玄米を炊く。  
居間のエアコンが何故か勝手に起動していた。

 5月9日(土)  
某機関誌のエッセイを書き、メール送稿。  
ツイッターデモ「#検察庁法改正案に抗議します」の書き込みが上がり続ける。

 5月10日(日)  
家の前にずっと不法投棄されていた不燃ゴミ2袋(かなりの重量)をゴミ置き場へ運ぶ。
鶴見俊輔・金子兜太・佐々木幸綱/黒田杏子編『鶴見和子を語る―長女の社会学』読了(これも黒田さんからの頂き物)。 小野市他編『小野市詩歌文学賞 上田三四二記念 「小野市短歌フォーラム」記念講演集』も読んだら、座談会で兜太が私の句《裸体なる夫婦がわれを剖くが見え》を現在の「俳言」の例として挙げている箇所があった。そういえば以前そんな噂を聞いたことがあったが詳細不明のままになっていた。

 5月11日(月)  
川本三郎『小説を、映画を、鉄道が走る』、山折哲雄『日本人の顔―図像から文化を読む』読了。  
図書館のコロナ休館は6月1日まで再延長されてしまっていた。  
低気圧によるらしいしんどさ。

 5月12日(火)  
倉田百三『愛と認識との出発』、近藤洋太『眞鍋先生―詩人の生涯』読了。ツイッターで見る世情に神経がささくれ立っているためか、その対局のような倉田百三の蒼古たる理想主義的な文章が妙にすらすら入ってくる。  
買い物から帰ったら、サトアヤが一人でツイキャスしていたので見る。  
AbemaTVで無料公開期間切れが間近な「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」序、破、Qをようやく見る。Qがひどい展開と聴いていたので億劫だったが、この辺は古典の勉強みたいなもの。

 5月13日(水)  
ツイッター、今度は「#検察に安倍首相に対する捜査を求めます」というタグが伸び始める。  
NHKカルチャー青山教室から、新型コロナ休講を当面延長するとのメール。  
美術画像の検索で時間を潰してしまう。

 5月14日(木)  
「翻車魚ウェブ」用の日記の抜粋をまとめる。  
4月11日以来、ツイッターで《#コロナばっかりで気が滅入るから好きな美術品を共有しようぜ》なるタグに西洋美術画像を上げ始めたが、今日までの自己既出は以下の通り。ダダ、シュルレアリスムが精神的な故郷のようなものなのだが、時代を反映して鬱々たる画風が多いので今回はあまり上げていない。
    

ジナイーダ・セレブリャコワ
エル・グレコ
ジョルジョ・モランディ
ピエール=オーギュスト・ルノワール
ピエール・ボナール
フランシス・ピカビア
フランツ・マルク
フランシスコ・デ・スルバラン
ジェームズ・アンソール
パオロ・ヴェロネーゼ
エドゥアール・ヴュイヤール
エドゥアール・マネ
クロード・モネ
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー
アンリ・ルソー
モンス・デジデリオ
アルテミジア・ジェンティレスキ
カナレット
カルロ・クリヴェッリ
T・C・スティール
ジョルジュ・ブラック
ワシリー・カンディンスキー
ウジェーヌ・アンリ・ポール・ゴーギャン
ホアキン・ソローリャ・イ・バスティダ
ジョン・コンスタブル
カミーユ・ピサロ
ウィリアム・ブレイク
ムンカーチ・ミハーイ
フラ・フィリッポ・リッピ
ケイ・セージ
アレクサンドル・ロトチェンコ
アルブレヒト・デューラー
クジマ・ペトロフ=ヴォートキン
オノレ・ドーミエ
オディロン・ルドン
ヤン・ダヴィス・デ・ヘーム
ピーテル・クラース(ロゴをかぶせた画像が混入していたので後で削除)
アンリ・マティス
エル・リシツキー
ジュリアン・オールデン・ウィアー

関さんのツイートはこちらから見られます

唯子  佐藤文香

唯子が鋏を貸してほしいと言う。自分のがあるじゃない、と私は唯子の手許を指差して言う。そうじゃないのと唯子は言う。茜ちゃんの鋏がいいの、と言う。 私のは持ち手が黒く唯子のはパステルがかったグリーンで、刃渡がいくばくか私のの方が長く、しかもこちらの方が鋭そうで唯子のは安全っぽい、つまり唯子のはお道具箱に入っていそうな学習用の鋏、私のは家にあったものを適当に持ってきた、そういう違いがある。

そういったことをつづめて、私ののが大人だから? と私が言うと、唯子は深く頷いた、その首の動きが不自然なので、いや私が大人なんじゃなくて鋏がね、と付け加えると、唯子は首を振る。茜ちゃんのがいいの、鋏じゃなくてもいいの、なんならお焼きでもいいの、おんなじ野沢菜味でもいいの、茜ちゃんがひとくち齧ったのがよいの、一度でも茜ちゃんのものになったものならなんでもいいの、茜ちゃん、わたし今の茜ちゃんの次の瞬間の茜ちゃんになりたいの、私ねって言い始めた茜ちゃんの、次の言葉、そうね目的語から動詞かしら、それを発するようでありたいの、茜ちゃんの鋏で、茜ちゃんが今まで切っていたそのいろ紙の続きを切りたいの、ごめんね茜ちゃん、そう言って唯子は、私の鋏を手に取り、鋏の持ち手と刃先だけが見えるように両手で持ち、祈るように手を組んだ。

私は、わざと心中を察さない風に唯子を見、なぜか震える唯子の二の腕を人差し指と中指で撫でたあと、そのまま二指を唯子の左頬に当てた。ぐっと近寄って、私が次何言うかわかる? と尋ねながら目を合わせ、指を左耳にずらし、耳の中に入れてから自分の顔を左へ(唯子にとっては右へ)まわり込ませて、右耳に唇を当て、わかる? ともう一度聞いた。わかりません、と悲しげに、しかし熱くなって答える唯子に、私はゆっくり、

 つ、る、む、ら、さ、き、

と囁き、唇を離し、指も離して、何事もなかったかのように、唯子の鋏で、さきほどのいろ紙を切り抜いた。 

唯子は、自分の手汗で金属臭を放ちだした私の鋏を持ち直し、大きく開いて、その刃の一番内側を舐めた。少し唾液が糸を引いたのが見えた。

2020年5月1日金曜日

あかるくふるまふ  佐藤文香


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 あかるくふるまふ   佐藤文香 

チューリップ猫に鏡を見せてやる
部屋干が出窓に透けて桜どき
切実に暇を過ごせば晩白柚
蛙とぶ鼻腔に声のあたたまる
中空に水の気持の蛙かな
お肉屋の豚まあまあな春の月
メーデーを光あかるくふるまふよ
鯖缶や指の間に汗をかく
ジャスミンを嗅ぐ飼主と老コーギー
暮れ残る初夏のマスクの内の鼻

春の夢  関悦史


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 春の夢      関悦史

路肩に何のヴィーナス像や春の雨
空中を歩んで朝寝して老いて
投函に幽かなる快沈丁花
押入に饕餮の鳴く春の風邪
倒立のとき佐保姫は見えてゐる
春永く閉ざす図書館美術館
行列の消えたるあとの揚雲雀
プロンプターは読めて総理や春窮を
怪光に追はれ砂漠や春の夢
春の夢岸本尚毅出てきたる