2021年2月17日水曜日

022*2021.2



作品 

作品 

作品 

虹を贈る   佐藤文香

賞があるからといってとらなくてもいいし、とったからといって内容が変わるわけではない。祝うことにしたとして、密を避ける現状の世の贈賞式の人口を一人増やすことをせずともよい。私とてそれくらいのわきまえはある。が、池田澄子『此処』が読売文学賞詩歌俳句賞を受賞したと聞いたときに、「式に行かせてください、鞄持ちとして」と言ったのは何か、自分が行った方がいいような直感があったからだった。

招待状を受け取ってしまえばこっちのもので、いつもどおりへらへらと「何着てけばいいですかね?」「ドレスと短パン以外ならなんでもいいわ」「澄子さんは何お召しになるんですか?」「私は喪服よ」などとLINE通話したりするわけだが、美容室を予約し、久しぶりに爪を塗るなど、案外ちゃんと考えてもいた。

帝国ホテルに花屋があることを確認し、事務局に電話をかけて「参列者がこう、花束を渡す、みたいな場面はありますか」と聞くと「今年は接触を控えるため、受け付けていないんですよ」と言われた。たまたま贈賞式前日に道で澄子さんに会い、お酒をいただくことになって、ご自宅の玄関を見ると、友人からもらったと見られる花がたくさん活けられていて、自分が贈賞式翌日に届くようにネットで配送を依頼した花をキャンセルした。どうも、私が贈るべきは花ではないらしかった。

道でばったり会うのはもう3回目くらい、それほど澄子さんとは家が近いので、仕事で同じ会場に向かうときなどは丸の内線の同じ車両に、澄子さんは南阿佐ヶ谷から、私は新高円寺から乗り合わせて行ったりする。今回もその予定で、時間に遅れることのない我々は到着時間から逆算した乗車時間を調べて同じ電車に乗ることに決めていたが、「明日に限って雨なのよ」と澄子さんに言われて確認すると、この晴天続きの2月になぜか10mmも降る予報になっている。「タクシーにしましょう、私が乗ってお迎えに上がりますんで」。その方が電車で不特定多数に接することもないから安心だ、その代わり私と濃厚接触になるので万が一私が罹患していたら危険だ、だがしかし、私は一緒に行くのがいいと思った。マスクを二重にして、窓を開けてもらって、だ。

予報通り、朝から雨。15時半、バスで美容室へ。少しやみ始めたかと思われたが、タクシーでいいでしょうとLINEをし、16時。またけっこう降り出した。予定通りタクシーを拾って、澄子さんのご自宅へ。澄子さんを乗せて、マスクを二重にし、青梅街道。込み具合がわからないから、新宿から霞ヶ関まで高速をつかってもらうことにした。高速に乗るころには晴れてきていた。

虹だった。

太く大きく、はっきりとした虹だった。「ちゃんと7色見えるじゃない」「こんなことってあります?」「虹に向かって走ってる!」……そうだった。我々は、雨後の夕晴れを東に向かっているのだ。虹が出るのは太陽と逆方向。すべての条件が揃っていた。私はタクシーの窓を大きく開けて虹を撮った。

霞ヶ関が近づき、タクシーはトンネルに入る。「一生の思い出になりました」「ね。これ、しのぶ会で言ってよ」「ま、20年後ですね」。帝国ホテルでタクシーを下車するとき、小銭だけ私が支払った。虹を追って走った高速道路の区間料金と、ほぼ同額だった。


雨は、晴れは、タクシーは、高速道路は、そして読売文学賞贈賞式は、澄子さんに、私にも、虹を見せた。


2021年2月16日火曜日

パイクのけむりⅡ ~斉藤斎藤から武漢三鎮の方へ~      高山れおな

二月一四日日曜日、「現代短歌」の五月号(ただし発売は三月中)における東日本大震災十周年の特集のために、歌人の川野里子さんと対談した。川野さんが震災関連の短歌五十首選を、私が同じく俳句五十句選を用意して席に臨んだのだが、川野さんの話上手にくらべてこちらはいつもの不調法で、あまりはかばかしい喋りも出来なかった気がする。せいぜいゲラで手を入れて少しはましなものにしたい。それにしても前晩、対談用のメモを作っている時に地震が来たのにはびっくりした。 

対談の常として話題はあちらへ飛び、こちらへ飛びしたのはもちろんとして、作者として一番名前が多く登場したのは、歌人では斉藤斎藤、俳人ではやはりと言うべきか、高野ムツオと照井翠だったろうか。

津波と原発の二つの主題がどう詠まれ、優劣が傾向としてあったかというのは編集部サイドから触れるように要請のあったトピックスのひとつだが、優劣ということでは、津波というか狭義の震災を詠んだものが勝っており、原発事故を詠んだものが劣っていることは、少なくとも俳句でははっきりしている。これは高野のように、両方のテーマである程度以上の数を詠んでいる作者の作品で比較すればかなり歴然とするはずだ。我々は原発そのものに対してどうしたらいいかわかっていないと同様に、原発をどう詠めばいいのかもわかっていない。この事情は短歌の場合もさほど違いはないようで、川野さんは未完成感という言葉を使っていた。その未完成感を免れているかどうかはさておき、ともかくやり切った感があるのが斉藤斎藤の『人の道、死ぬと町』(二〇一六年 短歌研究社)の連作群で、言及が多くなったのも当然のことだろう。 

角川春樹『震災句集 白い戦場』、長谷川櫂『震災句集』、関悦史『回転する六十億本の曲がつた棒』、照井翠『龍宮』、高野ムツオ『萬の翅』などはそれらが刊行された当座に触れていたが、五十句選を作るにあたりあれこれ読んで、特に感銘が深かったのは、小原啄葉の『黒い浪』(二〇一二年 角川書店)と『無辜の民』(二〇一四年 KADOKAWA)、西山睦『春火桶』(二〇一二年 角川書店)、柏原眠雨『夕雲雀』(二〇一五年 KADOKAWA)だった。このうち『夕雲雀』は俳人協会賞も受けており、今さらではあるけれど、それぞれ感銘の作の若干を引く(○は五十句選に入れたもの)。 

小原啄葉 『黒い浪』より 
帰る雁死体は陸へ戻りたく   *「陸」に「くが」とルビ 
行方不明者一人残らず卒業す ○ 
夏の夜や拇印真つ赤に遺体受く ○ 
瓦礫灼け羽のあるもの何も来ず 

 同 『無辜の民』より 
その高さ津波の高さ揚雲雀 
かりがねの空へ村去るクラクション 
貸し借りの小銭をかくす蒲団かな 

西山睦 『春火桶』より 
うぶすなは津波の底に鳥曇
   志津川湾再訪 十二句のうち 
仮の家の供華匂ひたつ春の雪 
津波禍の便器剝きだし苜蓿 
海の子は海へ還りぬ辛夷の芽 ○ 
鮑蜑津波を語りつと消ゆる 
海猫渡る万のひとみが沖に照り   *「海猫」に「ごめ」とルビ 

柏原眠雨 『夕雲雀』より 
泣きながら吸ふ避難所の蜆汁 
避難所に回る爪切夕雲雀 ○ 
日盛や津波抜けたるままの駅 
町ひとつ津波に失せて白日傘 ○ 
津波禍の漁船花野に横倒し 
津波禍の浜辺に獅子の舞激し 

と、ここまで書いたのが一四日の夜で、今は一五日の夜である。今日は夕方に、読売文学賞の贈賞式があって参列することができた。池田澄子が句集『此処』(二〇二〇年 朔出版)によって詩歌俳句賞を受賞したことはご承知と思うが、私を招待してくれたのは池田ではなく『暴流(ぼる)の人 三島由紀夫』(二〇二〇年 平凡社)で評論・伝記賞を受賞した井上隆史先生だった。受賞したみなさんの挨拶はそれぞれ良かった中で、若い軍医だった父君の死についての池田の話には少々驚かされた。池田がまだ子どもの時に、中国戦線で戦病死したことは知っていたが、それはカンコウの陸軍病院でのことであり、チフスが蔓延する中で、医師である父君もついにチフスに罹患して落命されたのだった。カンコウと聞いてひょっとしてと思ったところ、続く池田の「カンコウは武漢にあるんです」という言葉に予想が確かめられた。カンコウとはいわゆる武漢三鎮のひとつ、漢口のことなのだ。

池田澄子 『此処』 より 
敗戦日の落ちつつ大きくなる日輪
赤紙という桃色の紙があった 
汗臭く少女期ありき敗戦日 

読売文学賞の贈賞式が行われるのは帝国ホテルの「富士の間」という大きな部屋で、通常なら数百人が集まり、芋の子を洗うような感じの立食パーティー形式でにぎにぎしく行われる(それこそ高野さんが『萬の翅』で受賞した時もそうだった)。今年はコロナのお蔭で着席形式で、それぞれ四人のみが席に着いた大きな丸テーブルが、ひどく離れ離れに二十卓ほど置かれていただろうか(もちろん卓上に料理はなくミネラルウォーターがあるだけ)。武漢で死んだ若者がこの世に残した娘が、戦争をモティーフにした句も多く含んだ句集で大きな賞を受ける舞台を、武漢から広がったやっかいな疫病がかくも静かなものにしているのだから、不思議な暗合という他はあるまい。式後、お茶を飲んでからホテルのロビーに出ると、まだ八時を少し回ったばかりなのに、まるで夜中の一時か二時といった雰囲気で暗く閑散としていた。フロントの前にホテル開業一三〇周年を記念する赤い薔薇の花の巨大なオブジェが置かれていたので、それをバックにみなで記念写真を撮った。そのあたりは、佐藤文香の記事もご参照ください。

※佐藤は別のところに贈賞式の記事を書くことになりました。

日記(2020.12.15~2021.2.15)  関悦史

12月15日(火)
Zoom飲み会の調整その他のメール。 

12月16日(水)  
先日会場で見た小津夜景イベントの見逃し視聴期限なので、ちらちら見直す。
添削3通終わらせて、「日曜俳句倶楽部」の投句に目を通す。
津川絵理子句集『夜の水平線』読了。畏怖すべき境地。 

12月17日(木)  
買い出し。  
太田土男句集『土泊り』読了。  
「blog俳句新空間」に久々に投句。  
資料読み。 

 12月18日(金)  
部屋に埋まっていた『飯島晴子読本』を発掘。 

 12月19日(土)  
明日のオンライン講座の選句。  
「俳壇」新・若手作家トップランナー欄の西山ゆりこ論をやっと書く。
発熱。 

 12月20日(日)
NHK文化センターとZoomを繋いでオンライン句会「日曜俳句倶楽部」に出講。受講者に矢野玲奈さんが混じっていたので驚く。
柿本多映さんと長電話。
サトアヤから高山れおなさんが「翻車魚」に参加するとの連絡。 

 12月21日(月)  
黒瀬珂瀾さんが《〈美少年〉の殺し屋、暗殺者、アサシン、ヒットマンというと、誰を思い出しますか?》とツイートしているのを見て記憶を掘り起こしてリプ。  
林亮句集『歳華』、高岡修句集『凍滝』、石井清吾句集『水運ぶ船』読了。  
資料読み。  
微熱続く。 

12月22日(火)  
東京地検、安倍前首相を不起訴処分。 

12月23日(水)
照井翠句集『泥天使』、マブソン青眼句集『遥かなるマルキーズ諸島』、ジョーン・ヴィンジ『レディホーク』読了。
歯痛ひどくロキソニンをのむ。 

12月24日(木)  
微熱悪化。  
自作イラストを使った「翻車魚」グラス2種が届く。 

12月25日(金)
今瀬剛一句集『甚六』、向瀬美音編『HAIKU Column Vol.6』読了。
「翻車魚ウェブ」に10句送り、「翻車魚」オンラインイベントの投句に目を通してDMで打ち合わせ。 

12月26日(土)  
「100年俳句計画」の選句選評。  
『鍵和田秞子全句集』読了。 

 12月27日(日)  
オンラインイベント《翻車魚選評 on Zoom》にサトアヤと出る。NHKラジオ第1「文芸選評」のパロディじみた体裁で、題詠の選句選評のほか、俳句以外のフレーズを無理矢理添削して俳句にしてしまうコーナーなどもやる。
羽田雄一郎参院議員53歳がコロナらしい症状で急死の報。齢が私とさして変わらない。
座談会に出席した「俳句」1月号他届く。終盤が低調だが、ネットを悪の巣窟ではなく、単なるインフラと見てもらえる時代にはようやくなった。 

 12月28日(月)
東日本大震災10年の短い原稿を書く。 

12月29日(火)  
低気圧で起き出せず。  
電話で聞いた話、『新撰21』参加者の一人が来年句集を出すらしい。 

12月30日(水)  
小野村とオリビア撮影。ブックオフで百円本を買い込む。 

12月31日(木)  
手付かずだった神棚掃除と塩、米、酒の交換だけ済ませる。  
頸椎の異状で手が震えることもあり、賀状は数年前から諦めた。 

2021年1月1日(金)  
コロナ流行中にもかかわらず家の前の通りは初詣客がそこそこ集まっていた模様。
父の携帯に年始メールを入れる。コロナ自粛で体が弱ったと返信。
森奈津子『スーパー乙女大戦』、神林長平『いま集合的無意識を、』、東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』読了。 

1月2日(土)  
箱森裕美句集『脱ぎ捨てて』読了。 

1月3日(日)
不調。
メール立て込む。 

1月4日(月)  
4日になってようやく見た初夢は《釣竿を携えて颯爽と自転車を飛ばし、更には川べりで自転車を立ててグルングルンぶん回す曲乗りを披露して見せる高橋睦郎》だった。
近所のSさんと、もう一人のSさんから別々に食料の差し入れをいただく。
片岡義男『ふたり景色』『寝顔やさしく』『心のままに』『誰もがいま淋しい』、赤川次郎『猫は怖いか可愛いか』読了。 

1月5日(火) 
「週刊俳句」と「blog俳句新空間」に新年詠を送る。
片岡義男『Ten Years After』『and I Love Her』読了。 

1月6日(水)
大原まり子『一人で歩いていった猫』、赤川次郎『セーラー服と機関銃3 疾走』、内藤正典『限界の現代史 イスラームが破壊する欺瞞の世界秩序』読了。 

1月7日(木)  
ノーム・チョムスキー他『人類の未来―AI、経済、民主主義』読了。  
米議会にトランプ派乱入。死者が出た。  
添削。  
歯痛ひどい。 

1月8日(金)  
税務署、市役所を回って書類を揃えHPから給付金の申請。消耗。 

1月9日(土)  
津本陽・選『勝負』読了。  
さむけ。  
句集評一本書く。 

1月10日(日)
終日不調。 

1月11日(月)  
サービス終了となるアドビフラッシュプレーヤーをアンインストール。
別にMicrosoftからよくわからないメール。 

1月12日(火)  
司馬遼太郎『北斗の人』、釘宮つかさ『救世主は異世界の王に求婚される』読了。  
原稿用の例句探し。 
 
1月13日(水)  
レミ・ド・グールモン『仮面の書』再読。土屋遊螢句集『星の壺』、度会さち子句集『花に問ふ』、山藍紫姫子『蘭陵王』、栗本薫『鬼』読了。 

1月14日(木)  
NHKカルチャーの句会講座はコロナを警戒してまた当分中止となる。  
原稿ひとつ書く。  
後藤信幸『葛の空―後藤信幸全句集』、田村光昭『麻雀ブルース』、 葵居ゆゆ『薔薇十字叢書 ようかい菓子舗京極堂』読了。 

1月15日(金)  
燃料不足で新電力系の電気料金が急騰するらしい。うちはどうなるか。  
震災詠の選句作業。 

1月16日(土)
選句作業続く。
よろけて襖を破る。 

1月17日(日)  
箱のみかんが黴び始めた。 

1月18日(月)  
四ッ谷龍さんが今日で定年退職とツイート。

1月19日(火)  
微熱、頭痛続く。  
日本現代詩歌文学館の企画展用に自句を揮毫して発送。色紙なのに落款がないので間抜けだが、検索したところ、あれは完成の意で捺すものとの記述を見つけ、永劫に終わらないという句なので落款なしでもいいかと思う。

1月20日(水)  
添削。  
「文藝春秋」3月号に句を送る。
片岡義男『ボビーに首ったけ』『ラジオが泣いた夜』『俺のハートがNOと言う』読了。 

1月21日(木)
赤江瀑『海贄考』、斉藤斎藤歌集『人の道、死ぬと町』、栗城偲『ラブデリカテッセン』『バイアス恋愛回路』読了。
プリンタが紙を斜めに引きずり込んで止まるようになったが、微妙に反った紙束を裏返したら動いた。
昨日、坂本龍一が直腸がんを公表の報。
「円座」の連載原稿を2日遅れで書く。 

1月22日(金)
寝付けず。  
明日の座談会の資料に目を通す。 

1月23日(土)  
Zoomで震災10年の座談会。 

1月24日(日)  
微熱。眠り続ける。  
赤江瀑『アニマルの謝肉祭』読了。 

1月25日(月)
「翻車魚ウェブ」に10句送る。
氷室冴子『なぎさボーイ』『多恵子ガール』再読。高校の図書室で読んだが中身は完全に忘れていた。
小津夜景さん、四ッ谷龍さん、鴇田智哉さんと4人でZoom飲み会。小津さん、鴇田さんの出版記念会及び四ッ谷さんの定年退職祝いの代わり。私は特に何のイベントもなし。 

1月26日(火)
複数のゲラの往復が交錯。多面指し将棋のよう。 

1月27日(水)  
ゲラ交錯の続き。  
CDプレーヤーがまた盛大にノイズを発し始めた。
栗本薫『天国への階段』再読。ピーター・ベンチリー『海棲獣』、倉橋由美子『城の中の城』読了。 

1月28日(木)
井上ひさし『遅れたものが勝ちになる』、桜庭一樹『GOSICK―ゴシック―』読了。
封書でマイナンバーカード交付申請書が来る。行政の無駄使い。
低気圧不調。
霙。

1月29日(金)
「blog俳句新空間」に北川美美さんの訃報が出ていたのを知る。1月14日死去、享年57。2015年の秩父道場の帰りに都内まで車で送ってもらった際、関さんの句があると閲覧数が伸びるなどとおだてられたので、先日「blog俳句新空間」に出した句も美美さんに見てもらえているつもりでいた。
持続化給付金事務局から書類不備を指摘するメール。そもそも存在しない書類が必要なので修正は無理そう。不慣れな作業に翻弄されて疲れ果て、背が岩のように重い。生活保護の申請はしたことがないが、あれでこんな目に遭わされたら自殺する気力も出まい。
休講中、添削に切り替えた「土曜俳句倶楽部」の添削を済ませる。 

1月30日(土)
水岩瞳句集『幾何学模様』、谷原恵理子句集『冬の舟』読了。 
 
1月31日(日)  
ゲラひとつ返す。 

2月1日(月)  
読売文学賞詩歌俳句部門に池田澄子句集『此処』。  
支払調書の類が続々届き始める。  
土浦市から可燃ゴミ、不燃ゴミ袋の引換券。コロナ減収への対応の一環らしい。  
悪寒。
暗くなってから若い工夫が2人、近所の工事で大型車両が前を通ると挨拶に来て、ついでに家の二階の「のし」が飛び出していて雨漏りするはずだから直せという(この2人には依頼せず、後日、知人の業者に見てもらったが詐欺だった。近所で工事している気配もない)。 

2月2日(火)
体力的に無理そうな仕事をひとつ断る。
またゲラ複数交錯。Sさんが恵方巻の代わりにともらい物らしい混ぜご飯を持ってきてくれる。GYAO!で今日まで無料公開のアレハンドロ・ホドロフスキー監督「ホドロフスキーの虹泥棒」を見る。
ひどい頭痛、神経痛続く。 

2月3日(水)
素粒社がトークイベント《小津夜景×池澤夏樹 「小津夜景さんって何者?」》の情報をツイート。池澤夏樹との対談が実現したらしい。
澁澤龍彦『夢の宇宙誌』再読。冲方丁『微睡みのセフィロト』、吉本隆明『源氏物語論』読了。 

2月4日(木)
知人の業者に点検してもらったところ屋根は何ともなかったが、別にハクビシンが入れそうな穴が発見され、そちらの工事を頼む。  冲方丁『十二人の死にたい子どもたち』読了。

2月5日(金)
歯医者通いを再開。抗生剤をもらう。  
古本17点買い込む。  
「ふかわ」でカツ丼。  
市内また何ヶ所か閉店、更地化。 

 2月6日(土)
「土曜俳句倶楽部」の添削をようやく終わらせる。他社の添削も大体目処をつける。 

 2月7日(日)
校正中に疑問の箇所が出て、日本現代詩歌文学館に電話。学芸員の方に教えていただく。  柳原敏雄『味をたずねて』読了。 

2月8日(月)
座談会その他のゲラ。
今年の裕明賞の候補句集一箱が届く。
駒敏郎『東京の老舗 京都の老舗』読了。 

2月9日(火)
今年の裕明賞の選考会日程が決まる。
水木しげる『不思議旅行』、神吉拓郎『たべもの芳名録』読了。 

2月10日(水)
蕎麦屋・吾妻庵本店が外装をリニューアルして今出来の建築みたいになってしまっていた。市内のブックオフで古本8点買い込む。マンガ、クール教信者『小林さんちのメイドラゴン』4,5,7巻を読む。 

2月11日(木)
Sさん宅で和室を開け放し、会食。Fさんが急用でドタキャンになったため、参加はSさんと2人だけ。
安い古本をまた16点買い込む。自粛暮らしの鬱憤晴らしである。
ゲラの大間違いに気がつく。 

2月12日(金)
チック・コリアの訃報。
歯医者へ。
近所のMさんから電話。うちの隣のNさんのご主人が急に亡くなったという。家族葬なのでわれわれ講中としての手伝いは無用とのこと。町内から顔なじみが欠けていく。
クール教信者『小林さんちのメイドラゴン』1,2,6,8巻を図書カードで買い込み、徹夜で読む。マンガのまとめ買いは滅多にしない。するときは精神的に問題が起きていることが多い。
ツイッターでアストルフォの物凄いコスプレ画像を見てしまう。 

2月13日(土)
夜、震度5弱の大地震が起こり停電。震源は東北沿岸で、大震災と似た震度分布。津波はなし。
本の山等が大分崩れる。余震に備えて風呂に水を張り、枕元に靴を置く。夜2時頃停電復旧。 

2月14日(日)
大地震の安否確認のメール2,3通。
炬燵周りの本の散乱を片づける。三隅治雄『祭りと神々の世界―日本演劇の源流』、春風亭柳昇『与太郎戦記』読了。 

2月15日(月)
五木寛之『箱舟の去ったあと』、荒俣宏『アレクサンダー戦記』全3巻、森本哲郎『ぼくの旅の手帖―または、珈琲のある風景』、木村尚三郎『色めがね西洋草紙』、西丸震哉『未知への足入れ』読了。
森本哲郎『ぼくの旅の手帖―または、珈琲のある風景』(角川文庫)は先日買い込んだ百円本だが、アマゾンでなぜか2,700円超の高値が付いていた。

2021年2月1日月曜日

Wi-Fi     佐藤文香

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 Wi-Fi     佐藤文香 

音読の舌の疲れと春の雪 
にんぐわつの仮名のひびきを目が試す 
部屋の春挙手の記号を指が押し 
春の鹿ことばのともだちができる 
Wi-Fiをかよひ蠟梅めける声 
生海苔の香や命名の筆運び 
書いて生む松の湿りも春ならでは 
呼ばれ半母音は我へ布のごとく 
木瓜が詩となる構文に支へられ 
春ごとに逢ふことほぎの丘がある

三千里       高山れおな



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 三千里       高山れおな 

椋鳥の火のこゑ冬の日を落とす 
深閑と夫婦がきそふ木の葉髪 
或る恋は飽かず鯉見て暮早き 
音も無く跳んで散りしは狐火か 
地下駅に光る寒紅眼にのこる 
  一月二十日は高橋龍翁忌日。本年は三回忌なり。五句。
マスクして魔・酢・句の人の忌と思ふ 
血しぶきも駄洒落しぶきも氷点下 
冬草の東国地誌のまあだだよ 
友だちはだいたい死んで星冴ゆる 
赤絨毯を三千里行けば逢へるだらう

大気       関悦史


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大気       関悦史 

ハンバーガー寒暮の黄泉戸喫とす 
大歳時記床暖房に反りにけり 
浮遊霊化は冬のぶらんこより教はる 
図書室につるみ飛ぶ魄雪の昼 
乳輪に感覚のあり冬柏 
凧揚がりゐる間は大気ありにけり 
わが分身吾をつき落とす春の川 
アンモナイトは殻ごと食めり星朧 
猫のこゑ出すアレクサや恋猫に 
筑波大の核実験てふ春の地震