2023年12月15日金曜日

056*2023.12

 


10句
皇帝・首・ゴジラ 遅配十句  高山れおな

10句
雨の越中  佐藤文香

10句
布団    関悦史



砂の夏 佐藤文香


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書肆 翻車魚


砂の夏   佐藤文香



 


砂の夏       佐藤文香


かつて

麻の衣服の袖口に

小さな虻がとまった

人の帰った前庭で

落葉の記憶と照らし合わせ


砂の夏、

硬い言語の紙の束は

めくるだけで 朽ちていく


馬が帰る。

口実には湯冷ましを

笹の葉にしらふの劣情を。

風へ身を冷やしに参る

鋼の夏、

たんと嘲りがいのある

指環の夏。


夏の砂、

かつて えらく大きな

からくりが 人工島の

呼び水として栄えた、栄えた

球が来る くりかえし

弾かれる球 夏のこと


風でめくれるぎざぎざは砂

渓流を 無実の麗人が遡り

夏に消えた、

消えた、さわやかな仏たち


火が

馬の代わりに走る 砂の夏

(匙加減を間違うなよ、

 非力なのは織り込み済みだろうが

 糸車に獣を匂わせるのか?

 着飾って来られるなら小遣いは弾んでやる)


笹のひとむら

あちらの 背の白い馬は

もう声を出さないそうだ

くりかえし 弾が、くる

弾のこだわり 朱の季節


届出にはついていこう

下心を麻袋に入れて

ドンツキに火を放ったら

砂場でのアリバイを

夏の歌謡曲に焚き付けて。


夏が終わる、

浜をうしなう 火を送る

重なり合い 濃くなった

内海の怒りを 諾いうる


かつての砂の夏。

救いようのない

狭い木陰のはなむぐり。




2023年12月12日火曜日

皇帝・首・ゴジラ 遅配十句    高山れおな



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皇帝・首・ゴジラ 遅配十句    高山れおな

傘打つ雨生きて銀杏臭を嗅ぐ
作り喰ふ焼きそばの山神の留守
夕映えの襖不思議の国を隠す
黄落のささやきやまぬ町へ出よ
赤々と我が名捺したる木の葉髪
裸木の桜けはしく連なれり
霜月や映画はたして死と破壊
首級(くび)蹴つて映画終れば冬灯点く
ゴジラ観て涙ぐみしが近松忌
  校閲部Nさん定年
餅と文字いま柔らかき雑煮かな

2023年12月1日金曜日

雨の越中       佐藤文香



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雨の越中       佐藤文香

霜月つごもり僧侶スタバに迎へに来
クリスマスブレンド赤き実のなる枝
雨やみて曇りの銀杏落葉の香
冬なかば鷗ゆき鷺来たるなり
園内の運河や冬を信じたる
行き先に青空見せて雲も冬
雨ふたたび奈呉に蟹食ふ客ばかり
暖房に歌集めくりぬ願念寺
発つ鴨や神通川に脚垂らし
越中の枝より枯るる柳かな

布団        関悦史



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布団        関悦史

集合体恐怖症や陽に生る柿自身
きひみけへめこそとのもよろ夜の刈田
スノードームの雪るりるりと落ち月光
冬病めば河原の石ら寄り来たる
冷たしと動く心臓石の上
薬尽きたれば真冬の台所
わが血管茂り布団を絡めとる
部屋既に透けて生死の冬銀河
存在の非在にかはる布団かな
孤独死の後なる布団笑ふ如し