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ひとつの影 佐藤文香
夏が来るまでに目がかわいてしまふ
橋に立てば葉桜が夏中つづく
船に乗る五月は本に栞して
紫陽花や回して開ける嗅ぎ薬
耳に指入れて紫陽花寺にゐる
オレガノにギターの音が粒で触れる
ローズマリー町に気球の着くところ
ロバの気持ちはクリーム色で田水沸く
夕月も夏至を呼び出す口笛も
愛永し椋鳥の夏ひとつの影
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百題稽古差換ノ五
二月分遅配 高山れおな
更衣
花は葉に人は渚にころもがへ
夏虫
遙かより遙かより火蛾湧き次げり
鵜河
水火厭はぬが夜露死苦鵜の猛り
夏猟
鹿首(トロフィー)の瞠れる黴の館かな
蟬
蟬鳴くや敵ある如く焼く如し
残暑
あぢさゐの残党かすむ残暑かな
擣衣
秋澄むやとはに消えたる遠砧
秋風
秋風に白髪さかだつ銀座かな
嵐
墨ながす野分の袖や空模様
稲妻
いなづまや花の都の狂ひ咲き
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百題稽古差換ノ四 高山れおな
春日祭
神の山笑ひ山山笑ひけり
石清水臨時祭
さして行く南まつりや縄電車
志賀山越
恋の山砕けし果ては霞む海
落花
花筏ももとせ揺れて戦前へ
躑躅
短歌(うた)は愚痴俳句は馬鹿や躑躅燃ゆ
残鶯
鶯の口が真赤な春惜しむ
夏草
草いきれいよよ魅死魔の胸毛なら
扇
純白の扇つかひて旅人よ
樹陰
ひとりづつ腋の下闇伝ひ行け
避暑
破顔して太陽追ひ来(く)避暑の宿
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水のむ体 関悦史
黄金週間起きて水のむ体かな
憲法記念日クッキー焼かれ燃えあがる
逆光の暮はふくよかなる蚊柱
山滴る古事記は泥のにほひかな
このところ鼻血おほくて青嵐
どくだみはわが頭蓋骨欲る如く
戦争へ降らす大量の心太
イデア界AIの美女汗ばめる
追ひかけてくるラッパーや半裸にて
冷房車内連結部を視野曲がり直る