2019年10月17日木曜日

006*2019.10

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作品 
▶︎無休  関悦史

作品 
▶︎菊  佐藤文香

散文
▶︎日記(2019.9.15~10.14)  関悦史

散文
▶︎塚原  佐藤文香

日記(2019.9.15~10.14)  関悦史

 9月15日(日)  
 疲れがひどくて寝たままツイッターでお題を募り、次々句作していたらサトアヤからリプが来た。次の文学フリマで、即興で俳句を作って売るのだそうで私も強制参加になるらしい。(※←これはどうするか考え中です。来年にするかも。byさとう)

 9月16日(月) 
 寝付けず、さらにお題を募集して句作を続ける。小澤實さんから「デスモスチルス」などという題まで来る。

9月17日(火)
 講中のHさんから電話。行司の引き継ぎが10月6日にあるという連絡だったが、上京中のはずなので欠席。
 「女子高生の無駄づかい」のロボファンの“瓦ブルース”さんが「ロボが詠んだ俳句って、実際その道の人からしたらどんな感じなんだろうか」とツイートしていたので、長文リプ連投で句評を送る→(こちらを参照)。
 ブログに句集の抄出を4本上げる。

 9月18日(水) 
 「翻車魚」第3号用の50句をまとめ、メール送稿。
 知らない番号から着信。検索してみたらヤミ金業者からのワン切りだった。
 某誌の原稿のためにあちこちに情報提供を依頼していたのが集まり始める。

 9月19日(木) 
 土浦駅で28日~29日の彦根までの切符往復を買う。
 生涯学習センターにこもって資料に目を通す。北斗賞の応募作、数篇まで絞る。
 東電旧経営陣に無罪判決の報。
 ブックオフ荒川沖店まで足を伸ばし文庫古本2点買う。  
 「プレバト!!」俳句甲子園回の放映日だった。

 9月20日(金) 
 添削原稿が届き、増税で郵便料金も上がるのでその前に返送せよという。即日済ませて返す。
 AbemaTVで「ダンベル何キロ持てる?」第12話(最終話)見る。
 「円座」の連載原稿を書いてメール送稿。

 9月21日(土) 
 誕生日。50歳まで生き延びた。
 浅倉久志編『世界ユーモアSF傑作選1』読了。
 サトアヤと「翻車魚」第3号の打ち合わせのダイレクトメッセージ。
 夜、知人から電話。やや心配な内容。
 伊丹三樹彦氏の訃報。
 AbemaTVで「女子高生の無駄づかい」第12話(最終話)見る。今期、全話見たのはこれと「ダンベル何キロ持てる?」の2作だけ。
 来月分のNHKカルチャー「土曜俳句倶楽部」と、第2回全国学生俳句合宿への投句を済ませる。

 9月22日(日)
  日中寝てばかり。

 9月23日(月) 
 暴風の中、歯医者へ。
 ヤックスドラッグと近所のコインランドリーが来月の増税前に閉店を決めてしまった。

 9月24日(火)
  資料がメールで続々届く。
 句集何冊か読む。

 9月25日(水) 
 書店イベントに展示するための「視覚性を意識した句」1句をメール送稿。
 ブログに句集抄出を3本上げる。
 眩暈ひどい。

 9月26日(木) 
 筒井康隆『串刺し教授』再読。
 「翻車魚」第3号用のエッセイと「100年俳句計画」の選句選評を済ませてメール送稿。
 睡眠ズタズタ。

 9月27日(金) 
 午前10時過ぎ、Oさんが来て、中途になっていた洗面台の蛇口の交換工事。台所のと合わせて工費を支払う。
 献本に関する行き違いがあって黒田杏子さんと電話。
 金子兜太句集『百年』、高山れおな『切字と切れ』等を読み、共同通信の時評を書き送る。

 9月28日(土) 
 第2回学生俳句合宿のため、彦根へ。
 集合場所の彦根駅前に学生たちと屯していたら、何の集まりなのか不思議に思った地元の男性に話しかけられた。金髪緑髪入り混じった若者集団なので、俳句の集まりには見えないだろうと思って説明していたら、相手はエホバの証人だった。
 徒歩で彦根勤労福祉会館に移動し、午後中最初の句会。
 夕方、彦根ステーションホテルに移動。2階の広い座敷で夕食。人数の伝達に何か間違いがあったらしい。食事が一人分足りず、柳元佑太が待たされる。
 夜、ホテルの離れの雑居ビルのような会議室で第2句会(席題「案山子」「温」)。終了後も学生たちは自室で句会を続けていたらしい。

 9月29日(日) 
 ホテルのロビーで売られている日本酒に「石田三成」というのがあった。その下に置いてあった古本は、吉川英治の『宮本武蔵』と秋月こおの角川ルビー文庫のBLが中心という妙な品揃え。
 午前9時チェックアウト。
 彦根駅でもう一人の講師、対中いずみさんと合流。
 吟行は自由行動。半分程度の人数で、徒歩で琵琶湖へ向かう。表示を見て簡単な道を選んだ結果、見所多そうな彦根城を突っ切らないで、堀の外の単なる国道みたいなルートを延々歩くことになった。
 琵琶湖に着いてからは、みな座り込み、飽きもせず湖面の彼方を眺めていた。水がきれいなためか近所の霞ヶ浦と違い、水平線から精神分析でも受けているような印象。
 幹事に呼ばれて昼過ぎ、バスで駅に戻り、ホテルに預けた荷物を回収して、彦根勤労福祉会館の会議室で昼食後、第3句会。対中班と関班に分かれての句会だったが、私の班はなぜかほとんど男子ばかり。
 帰りの車中は疲れて何も読めず。
 資料メール等どかどか届く。

 9月30日(月)
  北斗賞の選考を終える。学生俳句合宿の前に済ませるつもりだったが。
 消費税8%最後の日。不調で買い物に出られず。

 10月1日(火) 
 「俳句界」と「俳句四季」の短い原稿を書いて送る。
 深夜、共同通信からメールでゲラ。

 10月2日(水) 
 荒巻義雄『紺碧の艦隊』全20巻読了。読みもしない記者から好戦的な読み物と思われたようなことがあとがきに書かれていたが、後半は艦隊も戦闘もほとんどなく、著者の地政学論が地の文で延々続いていた。
 メールで諸連絡。

 10月3日(木)
  眠気、腹痛、肩凝り。

 10月4日(金) 
 腹痛で起床。
 炬燵の上の本の山を除け、「翻車魚」第3号の表紙絵に手を付けたが体調のせいか形が一向に取れず。

 10月5日(土) 
 睡眠ズタズタ。
 NHK文化センター「土曜俳句倶楽部」出講。
 途中、御徒町で降りて、第9回「上野広小路亭古本祭り」へ。古本2点、野口武彦『江戸のヨブ―われらが同時代・幕末』、吉本隆明『戦後詩史論』各330円購入。
 帰りにブックオフ池袋サンシャイン60通り店も見てみたら、隣のパチスロが閉店してしまって、店の前にいた綾波とアスカの等身大フィギュアもどこかへ消え、薄暗い印象になっていた。
 とんでもない量の句を通覧しなければならない原稿依頼メールが来て考え込む。

 10月6日(日) 
 週刊俳句の『切字と切れ』特集座談会を寝たまま読む。
 郵便物が大量に来て、句集7冊を通読。
 出席する予定だった「未来図」35周年祝賀会、体調がしんどいので何日か前に欠席の連絡を入れておいたのだが、出席者から心配するメッセージを頂いてしまった。祝賀会ではじゃんけん大会をやっていたらしい。

 10月7日(月) 
 「翻車魚」第3号の表紙絵用のシロフクロウを描き直し、スキャンしてメール送稿。

 10月8日(火)
  諸連絡立て込む。
 未明地震。

 10月9日(水) 
 図書館に行ったついでに歯医者に寄り、12日の予約が台風19号とぶつかりそうなので変更してもらう。
 カスミのイートインコーナー(買った物をここで食べてしまうと税率が10%に上がる)を消費増税以後初めて見てみたが、高校生が数人いるだけでここを根城にしていた老婆集団は消え去っていた。

 10月10日(木)
 年鑑の原稿をようやく書き終え、送稿。
 2018年と19年のノーベル文学賞はオルガ・トカルチュク(ポーランド)とペーター・ハントケ(オーストリア)。ストックホルム共同の速報は「ノーベル文学賞は外国人に」という受賞者も何もわからないひどい記事。

 10月11日(金)
 家中の雨戸を閉め、台風19号に備えての買い出し。スーパーは主婦の大行列でやや緊迫感あり。開店直後なのにパンはほぼ売り切れ、水も半分程度。
 裏のガラクタを飛ばされないよう取り込み、風呂に水を溜めておく。前に落下して、物置に乗せてあったはずの雨樋が見当たらず。
 夜、携帯電話に緊急速報で避難準備勧告が入り始める。
 台風コロッケは定着してきてしまった模様。

 10月12日(土)
 睡眠ズタズタ。
 ツイッターで状況確認だけしていたが、「地球史上最大」との噂(誤訳記事だったようだが)まであった台風19号は夜0時前にはつくば市を抜け、うちは被害なく済んだ。
 5日に来ていた原稿依頼の返信期限が明日に迫り、受けると返信。

 10月13日(日)
 戸袋の奥に何かが引っかかって雨戸が開けきれなくなった。
 小野村来宅。車に同乗して、途中のブックオフ等に寄りつつ松戸方面へ。
 土浦駅の先の桜川がだいぶ増水し、橋の下まで迫っていた。
 ブックオフの100円本は店や仕入れ時期によって108円と110円が混在した状態。
 小野村宅に泊めてもらい、たまたま放映していたアニメを数本見る。

 10月14日(月)
 新宿西口のギリヤーク尼ヶ崎舞踏公演に行く予定だったが、台風通過後なのに雨となり観覧中止。観るだけならカッパを着て座りこめば済むが、小野村は撮影が目的だった。
 柏での買い物だけつきあって電車で帰る。
 気圧のせいか異様に疲れる。
 竹岡一郎さんが台風被害を心配して缶詰類を送ってくれたのを受け取る。
 野村美月『ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件』全8巻読了。土浦の「まんがらんど」閉店の投げ売りのときに前半の4巻だけジャケ買いで手に入れてしまったが、その後少しずつ続きを買い足して全部読めた。

2019年10月15日火曜日

塚原  佐藤文香

健太郎が塚原と出会ったのは、コマ撮りアニメの制作現場だった。先週末、健太郎が大学の先輩である高橋と久しぶりに飲んだとき、テレビ制作会社を辞めてフリーの放送作家になった高橋が、友達が困ってんねん、と押し付けてきたバイトの現場だ。
健太郎は修論を書ききらないまま修士3年目に入り、大学に行かないならせめてバイトくらいしようと思って、しかし高橋の紹介というのはなんだか怪しいから、転送されてきたアドレスに、1日なら大丈夫です、と連絡した。
当日は午前十時に多摩川沿いの建物の前に集合だというので、行ってみるとデカい女子が一人いて、それが塚原だった。金髪のショートヘアで、眉毛が黒かった。というか、顔がやたらデカかった。

ツカハラユミです、週に何回かバーでバイトしているけどたまには昼も人と会ったりしようと思って、知り合いの紹介だけど内容は何にも教えてくれなかったんだよね、と聞いてもいないのに喋るから、俺もよくわからないです、と言おうとしたら、明らかに健太郎たちより若いと思われる担当者が、ほかにも何人か来るはずなんですがさきに入ってください、と呼びに来て、倉庫のような現場に入った。現場は殺伐としていて、皆睡眠不足の目つきで健太郎たちを見た。
塚原に、「で、お名前は?」と聞かれ、「佐々木です」と言うと「下の名前」と言うので「健太郎」とこたえた。塚原は、「健太郎くんか、かわいい」と言った。別にかわいい名前じゃないだろう。健太郎ははじめから塚原を塚原と心の中で呼んだ。ユミの漢字はわからないが、塚原は一択だったからだ。あと、顔が塚原顔だった。

ふたりに与えられたのは、A3の厚紙に描かれた落葉の絵を鋏で切り抜くという仕事だった。アニメの背景の森の地面にそれを散らすという。落葉には銀杏の葉や紅葉のようなものもあれば広葉樹的な葉も大小あって、渡された厚紙には全部で12パターンくらいの葉がランダムに並んでいた。すべて絵の具で描かれたもののカラーコピーだ。それが30枚以上積んであったので、とりあえずの仕事としては十分だった。
健太郎がだるいな、と思っていたら塚原が低い声で歌いながらガシガシと切り始めたので、なおだるくなり、できるだけゆっくりやろうと思った。すると、「ほかのバイトの子が来てくれたのでー」と、さっきの担当がいかにも愚鈍そうな男を連れてきて、健太郎はそいつと一緒に力仕事のパートへ向かうことになった。健太郎は別の現場で使ったらしい木材を外に運び出しながら、さっき塚原が歌っていたのは井上陽水の「ワインレッドの心」だとわかり、妙に納得した。
愚鈍そうな男は見た目通りの力持ち(それらは両立する)で軽々と仕事をこなし、誰がどう見ても貧相な体つきの健太郎は明らかに落葉の切り抜きの方をやるべきだったと思った。なんなら材木運びは塚原がやった方がよかったとさえ思った。

バイト終了後、これは明日、いや明後日か、確実に筋肉痛がくるぞと、乳酸の溜まった腕で口座登録の用紙を記入していると、後ろから「健太郎ちゃんお疲れ!」と低い声がした。塚原だ。塚原はほかのバイトの人たちを「お疲れさまでした〜」と見送って、健太郎が書き終わるのを待った。
外に出るともう夜ではあるが薄曇りで明るく、四月らしい空気が充満していた。「花見っぽいヤな空気ですね」と健太郎が言うと、塚原は「夜桜見て帰る? 家どっち?」と、サークルの先輩感を出してくる。

「いや、花見は嫌いなんです」
「家はどこなの」
「代田橋ですけど」
「じゃあさ、神田川行こうよ」
「代田橋と神田川関係ない」
「漢字三文字で真ん中が「田」じゃん。近からず遠からずでしょ?」
「場所は別に近くないから」
「てか健太郎くん年いくつ?」
「25ですけど」
「3つ下だ。よし」
「よしの意味がわからないですけど」
「いや、さっきからタメ口で喋ってたから、万が一年上だったらどうしようと思って」
「ああ、そこは案外気にするんですね」
「年上には年上のよさがあるけどね」
「それは知らんけど」

二子新地駅に着き、健太郎は焼き鳥が食べたくなって、焼鳥が食べたいと言った。塚原は即座に、新宿の焼鳥屋に電話をかけた。神田川より焼鳥優先でいいらしい。花よりなんとやら、だ。なんとやらに代入されるのは、焼鳥か、それとも。

健太郎は、そういえば年上の女とも、自分より顔がデカい女とも、セックスしたことねーな、と思った。

2019年10月2日水曜日

無休  関悦史

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無休       関悦史 

女子同士ぼけ突つ込みて水中花
円錐と三角錐や秋の声
鰡と鯊どちらにされるかを選べ
ヘイト本満ちゆき書店破蓮
増税に三葉虫型秋の雲
家財なき建築にこそ秋の昼
天行の茸に休みなかりけり
処理水と呼ぶ汚染水邯鄲は
まれびととなる番の来る秋燈
マスク永久に取らぬつもりか男の娘

菊  佐藤文香


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 菊      佐藤文香 

日を思ひ出めかすや秋の色眼鏡
晴海埠頭行きバスゆける鰯雲
チョコレートコスモス/銀座北へ延ぶ
秋の白Tシャツこそよけれ日本橋
「美と、美と、美。 資生堂のスタイル展」 二句 
歯磨の缶の錻力よ秋茜
香水瓶の菊は雪岱菊の頃
地下よりの湯気にはだかの枝ひろごる
流星やパエリヤ鍋を刮げ合ひ
ながき夜の浅さを見附にて別る
月明に脱ぎ中敷の厚き靴