2019年8月15日木曜日

004*2019.8


タイトルをクリックすると読めます

作品
▶︎梅雨  関悦史

作品
▶︎へら  佐藤文香

散文
▶︎日記(2019.7.15~8.14)  関悦史

散文
▶︎俳句は続けなくたっていい  佐藤文香

俳句は続けなくたっていい  佐藤文香

俳句の作品依頼は、なぜかいっぺんにくる。
いや、私なんかはそんなに依頼がくる方ではないのだが、それでも年に1度くらいのやつが、なぜか重なったりする。ここから1ヶ月のあいだに、12句作品をふたつ、それと同人誌「鏡」の14句もあるので、計38句必要だ。

そうなると、俳句は急にはできないので(できる方もいるかもしれないが)、生活を俳句書くぞモードに切り替えなければならない。いつもそのモードにしておくのが俳人なのかもしれないが、だとすると(でなくても)私は俳人ってかんじではない。

〆切以外のために俳句を書くのは難しい。そう言っていると本当に書かなくなるので、句会が月に5つほどある。そのうちのひとつは、ほかの句会に出したものなどを計20句持っていくことになっているから、毎月最低20句は書くのだが、最近はけっこうギリギリ20句くらいということも多かった。スランプ、といえるほど真剣でないとすれば俳句に失礼かもしれないけれど、あまり書く気にならなかったのだ。理由は簡単で、10数年ぶりの大学のテストやレポートをがんばったから、というと、じゃあふつうの大学生は、とか、いそがしい社会人は、となる。そう、そうなのである。

私は大学時代まではともかく、その後は、ひまだったからたまたま俳句を書いていた、いや、書くしかなかった、あるいは、書いていることにしていた、気がする。

おととい、同い年の山口優夢と宮嶋梓帆と会った。ふたりは、大学を出てそれぞれ新聞社に勤めている。宮嶋さんについては以前ここでも書いた。→週刊俳句600号に寄せて 宮嶋梓帆のこと ふたりだけでなく、多くの若い人が就職して忙しくなって、俳句から少し離れるのは、言ってみれば当然だと思う。「若い人はすぐやめてしまう」とか「やめずに続けるのが大切」とか、そういうのはなんか違うんじゃないか、と、続けていることをほめられるたびに思っていた。私は、やめる理由がなくて、時間だけがあった。だから、この10年くらいの若手役の一人を、たまたま担当しただけだと思っている。

若者が俳句で稼げる未来、みたいなのに対して、あんまり興味がない、と書くのは不用意かもしれないが、少なくとも俳句作品を書くことだけでやっていくのは、今後どんなに俳句が盛んになったとしても、なかなか難しいだろう。もちろん、他の仕事との組み合わせ次第で、俳人として稼げる可能性はあると思う。私は、組み合わせるほどのスキルがほかになかったし、教えたりするようなことも知識に乏しく、自転車操業に力尽きたから、いったん休憩してインプットを増やそうという気持ちで今はいる。

学生時代俳句に打ち込んで、その後俳句とはあまり関わりのない仕事に就いたとして、はじめ10年くらいすごく忙しくて俳句をつくる余裕がないという人は多いだろう。でも、少し手があいたり気持ちが落ち着いたりしたら、また俳句にぐっと打ち込んでもいいし、たまに句会に出るだけでもいいと思う。そこから俳句読者になるというのもいい。結社に入ると、毎月最低何句かはつくって、自分の句が掲載された結社誌が送られてくるから、忙しくても、転勤しても、そうやって続けるというのも手だ。でも、それすら難しいことだって多い。続けていても、いい句が書けない時期もあるだろう。

私が選んだ『天の川銀河発電所』の作家のなかには、ずっと俳句を続けていくことにはならない人もいるだろうけれども、それは何もわるいことではないと思っている。編集方針を「今、旬だと思う作家」にしたことで掬い上げられた作品があるということだから、そういう人が、俳句というジャンルを通過してくれたことを誇りに思う。逆に、たまたまこの本が出るタイミングで、あまり俳句に関わっていなかった人のことも、大切に思っている。次の10年、その次の10年、ずっと活躍する人もいるだろうし、ある一時期輝く人もいるだろう。どちらも、俳句というジャンルに欠かせない作家となるはずだ。作品をしっかり見ていたい。

また、ジャンルへの貢献という意味では、評論を書く、編集者になるなど、作品をつくること以外にもいろいろ方法があるから、それぞれが得意なやり方で、深く関わったり、ちょっと休んだりすればいい。

私はまずは、目の前の依頼をやります。
ちょうど夏休みでよかった。やっぱり、まとめて書くのはすごく面白い。今のところ。

日記(2019.7.15~8.14)  関悦史

 7月15日(月)
 市役所の国保年金課から不在配達票。こういうのは内容がわからないと不安の対象。

 7月16日(火)  
 後頭部、目の奥の凝りがひどくて何も読めず。  
 増税等、強い不安感。切れ切れに寝続け。  
 講師として出る第2回「全国学生俳句合宿」の連絡メールが来る。場所は彦根に決まったらしい。  
 ハガキ投函のついでに参院選のポスティング少し。

 7月17日(水)  
 自転車で参院選のポスティングの続き。  
 買い物。  
 本局で市役所からの不在配達を受け取ってきたが、今年度の健康保険証だった。  
 『第10回田中裕明賞』冊子他届く。

 7月18日(木)  
 京アニが放火され7,8人が大けがの報(のち周知のごとく死傷者数が増えた)。  
 北斗賞応募原稿がどさっと届く。  
 虫食いの痒みがぶり返し、ほぼ使っていなかった置き薬の箱から「新スキントールS」(800円)というのを開けて使用。毎年1度、集金と薬の入れ替えに男性が回ってくるので支払いはその時となる。  
 AbemaTVに参院選絡みのプロパガンダCMが入るようになり、気分が悪いのでその都度切っていると接続後も音声がなかなか復旧しない。  
 前回急病で落とした「円座」の「平成の名句集を読む」の原稿を何とか書いて送稿。

 7月19日(金)  
 古井由吉『辻』読了。古井作品としては珍しく対人関係的な嫌さがあるので、以前中途で放置していたもの。  
 市役所で「第25回参議院議員通常選挙」の期日前投票を済ませる。  
 学習センターで朦朧と「岳」7月号に半分目を通したところで柿本多映さんから着信。外で話したが、今回ほとんど見かけなかった選挙カーが回ってきて通話不能に。

 7月20日(土)  
 塚本邦雄『青霜百首―大伴道子秀歌鑑賞』無理矢理読了。未知の歌人だったが「大伴道子」は西武グループ創業者・堤康次郎の妻で、堤清二(辻井喬)の母。その才に驚く。ブックオフで108円で出てきた本。

 7月21日(日)  
 寝付けないまま「第10回田中裕明賞吟行会・句会・御礼の会」のため、深大寺へ。  
 朝から蒸し暑くて、電車で移動中に「不快指数の歌をでたらめに作ってうたうぞ」などとツイートしていたのだが、その後自動筆記的に勝手に出てきたのが以下の歌。    

 不快指数の歌 

 不快指数が 肩から伸びて 
 手の林には あなたが消える 
 うぉううぉううぉううぉう 
 脳内モルヒネが 青田を埋め尽くす 
 家には地蔵が101体 笑って待っている  

 この時点で体にかなり負担がかかっていたことがわかる。 
 集合時間を勘違いしていて10分ほど遅れ、有以子さんの車に拾ってもらって吟行に合流。句会参加者は四ッ谷龍、小川軽舟、岸本尚毅、津川絵理子、森賀まり、小野あらた、池田瑠那、伊藤隆、佐藤りえ、沼尾将之、髙柳克弘の各氏と私。句会はろくに点が入らず。  
 ブックオフ池袋サンシャイン60通り店で中古CD、RCサクセション『シングル・マン』(ボーナストラック「い・け・な・いルージュマジック」「明・る・い・よ」収録バージョン)が手に入る。ボーナストラックの方が主目的なのだが収録曲違いのCDが何種もあり、ネットでは区別不能なので買えずにいた。  
 参院選の投開票結果、れいわ新選組が2議席。  
 現俳青年部の熊本勉強会について、高山れおなさんから《「使命と俳句」ってなんですのん?》とメール。

 7月22日(月)
 句集類いろいろ届き、4冊読了。

 7月23日(火)  
 首の付け根が鳴って何週間ぶりかで凝りがほぐれ、多少本が読めるようになる。

 7月24日(水)  
 句集、小説等読む。

 7月25日(木)  
 しんどいが買い出しへ。  
 アスキードワンゴのS氏からメール。ニコニコ本社やニコファーレがなくなるという記事は見ていたが、「数学俳句」コーナー担当として2度ほど出演した数学イベント「Math Power」も残念ながら廃止となってしまった。  
 「読売人物データベース」への追加情報(この一年の自分の活動)を調べてメールで送る。
 「翻車魚ウェブ」用の句を揃えて送稿。

 7月26日(金)  
 睡眠ズタズタ。  
 10月からの消費税10パーセント増税に加え、2023年からインボイス導入と知る。数年以内に重税で命を絶たれることになるのだろう。  
 諸連絡立て込む。

 7月27日(土)  
 「100年俳句計画」の選句選評と、毎日新聞社の通信添削を済ませる。  
 メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』読了。原作・解説を読むと流布しているイメージとかなり異なる。怪物の歎きは非リアの歎き。

 7月28日(日)  
 池袋の古本まつりで買ったソノラマ文庫の永井豪原作/永井泰宇著『真・デビルマン』全4巻読了。幼少期にアニメだけちらちら見ていたはずだが、筋はほとんど知らずにいた。

 7月29日(月)  
 メール句会の選句結果の配信や、共同通信の時評を済ませる。  
 赤川次郎『プロメテウスの乙女』読了。独裁国家化した近未来の日本を舞台とする古い小説。こういう作品に出てくる独裁者はカリスマ性のある底知れない人物だったり、酷薄な切れ者だったりして、いずれにしても有能な存在として描かれている。現実の予言が目的ではないからそちらと直接比べても仕方がないのだが。  
 俳句甲子園事務局から封書で「大会についてのご案内」。

 7月30日(火)  
 買い出し。  
 疲れ。

 7月31日(水)  
 共同通信時評のゲラを済ませる。  
 肩凝りに苦しみ、のたうち、何も読めず。

 8月1日(木)  
 「岳」7月号掲載句の鑑賞をようやく書いてメール送稿。

 8月2日(金)  
 俳句甲子園事務局から封書で個人賞選考用の作品一覧が届く。  
 谷譲次『踊る地平線』読了。  
 黒田杏子さんから電話。「俳句」8月号に書いた『金子兜太戦後俳句日記 第1巻』書評の転載の話。

 8月3日(土)  
 句会講座「俳句と出会う」クラスの代講と「土曜俳句倶楽部」出講のためNHK青山文化センターへ。藤井さんの代講は今回で終わり。介護の都合で欠席する人が多い。  
 ブックオフの100円本の値札シールが既に「110円」に上がっていた。10月1日まではレジで108円にするらしい。  
 帰りの車中、「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展」が脅迫により中止の報。松戸の手前辺りで窓から花火が見えた。  
 土浦はキララまつりだったが、夜見かけたのは山車と警察車両だけで、最近恒例化しているらしい自衛隊の軍用車両の展示をまたしていたのかどうかはわからず。  
 中古CDで買ってきたクセナキスの「ペルセポリス」聴きつつ入眠。以前ネットで聴いたものより音質が丸くなってしまっている気がする。



 8月4日(日)  
 夢。運動会のようなイベント、公民館でタモリが受け狙いで即身仏になる。  
 スキャナーがモアレ頻発。  
 昨日のNHKカルチャー2クラス分の欠席投句の講評を書いて、担当者にメールで送る。  ツイッターで《戦後憲法裁判の記録を多数廃棄 自衛隊や基地問題、検証不能に(共同通信)》の記事が回ってくる。

 8月5日(月)  
 眉村卓『異郷変化』を40年ぶりくらいで再読。旅先で妙な女性に非日常へ連れ出される怪談短編集。  
 買い出し。  
 サトアヤとDMで「翻車魚」から文フリに出すものの相談。私の「BL句集」を作るつもりだったが、11月の文フリ東京には間に合わないか。この先あの手の句をそう作るとは思えず、第2句集以後の未収録句がだいぶあるので本にまとめておこうと思ったのだが。
 『俳句年鑑』2010年版用の諸家自選5句を選び、記入。

 8月6日(火)  
 パソコン買い替えの費用を下ろしに行き、本局で不在配達の荷物を受け取る。  
 学習センターで俳句甲子園の作品を通覧。個人賞候補を数十句まで絞る。  
 疲れ目、首の凝りひどい。  
 トニ・モリスンの訃報。

 8月7日(水)  
 現俳青年部熊本勉強会のレジュメ作り。  
 諸連絡。

 8月8日(木)  
 中島憲武『祝日たちのために』他届く。  
 小野村と「第28回東急東横店渋谷大古本市」へ。その前に、現存する最古級の団地「中野駅前住宅」が取り壊されるので、そちらに寄って撮影。  
 渋谷大古本市の会場である東急東横店も来年3月で閉店らしい。ミシェル・ビュトール『仔猿のような芸術家の肖像』、E・ブロッホ『未知への痕跡』、 ジョン・ホークス『もうひとつの肌』、磯崎新『造物主義論―デミウルゴモルフィスム』、カーレン・ムラディアン『アーシル・ゴーキー―ある異邦人との対話』等を買い込む。SF、ミステリを扱う古本屋は今回あまり出店していなかった。  
 秋葉原でパソコンを見たが種類が意外となく、地元の店で見繕ってあった品を買うことにする。  
 小野村の家に一泊。

 8月9日(金)  
 小野村の車に同乗、千葉、茨城のブックオフ3店舗を見ながら土浦へ戻る。  
 今度は小野村がこちらに泊まる。

 8月10日(土)  
 猛暑。  
 朝から小野村と近所の蓮田へ出かけ、ハスの花を撮影。遅くなるとしぼんでしまうのだ。
 パソコンを購入し、数万円飛ぶ。windows7が年内でサポート終了してしまうためである。  
 夕食、吾妻庵本店でもりそば。店内のトラ猫が匂いを嗅ぎに寄ってきて、私の膝に前脚をかけ、卓まで上がる。  
 日暮れ近く、外を歩ける気温となり、紫ヶ丘貯水池、紫ヶ丘公園でオリビア撮影。

撮影 K.Onomura


 8月11日(日)
 俳句甲子園の航空券の再配達を受け取り、歯医者へ。  
 現俳青年部熊本勉強会のレジュメを作って送る。

 8月12日(月)  
 睡眠切れ切れ。  
 物干しハンガーがまた壊れたのをビニール紐で補修し、洗濯。  
 鈴木牛後『句集 にれかめる』他届く。  
 カーレン・ムラディアン『アーシル・ゴーキー―ある異邦人との対話』読了。

 8月13日(火)
 俳句甲子園の個人賞の選考を終え、事務局にメール。名句が多くて絞り込みに難渋。
 夜、I氏から電話。私の選句が届いていないというので起き出して再送。

 8月14日(水)  
 肩凝り、疲れ続く。  
 毎日新聞社の通信添削を済ませる。締切は先だが、俳句甲子園に行く前に送ってしまわないと間に合わない。

2019年8月1日木曜日

梅雨   関悦史


画像をクリックすると大きくなります

梅雨         関悦史

どくだみに隠るる古き眼鏡かな
揉み洗ふや素麺と指いづれも快
梅雨の月蚯蚓メタリックに伸びきる
梅雨茸や男屈めば分身も
深悼 京アニ 
アニマら生身をガソリンに焚かれ給ふ長梅雨
ならず者みな逃げ込みぬ箒木に
スーツの男と素裸の女チェス始む
泉からふはふはとゆくものがたり
「性癖」といふ語の誤用竹婦人 
佐藤文香宅の模様(伝聞) 
バルタン星人真似て夫婦や夏の夜を
バルタン星人真二つに切られ夏料理

へら   佐藤文香



画像をクリックすると大きくなります

へら     佐藤文香

箆鷺や林に飼はれたまに飛ぶ
首を背に入れて一羽の布哇雁(ハワイガン)
羽閉ぢて神様蜻蛉腕毛長ガ
梨園のあひだをバスは曖昧に
夏の花夜だねとこどもが笑ふ
寒い夏くろくつやめくちひさな虫
冬瓜はかはらず雪の味がする
靴箆をつかつて返す仏桑花
水茄子の浅漬に灯の揺れてをり
たこ焼とイカ焼がある今日の夏