2019年5月1日水曜日

遊び、弁当を食べてくる  佐藤文香

この春は夫とかんたんな花見を2回おこなった。ふたりで食べる分だけの食べものと、100円ショップの薄いブルーシートを買って行った。シートは一度敷いたら使い捨てにするというのがラクでよかった。ただ歩いてみるだけでなく、そこで飯を食うのは楽しい。関さんの森でも、皆で弁当を食べるのがよいだろうと思ったので、「昼ごはん持参で12時半に新松戸駅集合」と連絡した。

ここで思い出したのが、「週刊俳句」2010.4.4の平井照敏 編『新歳時記』(河出文庫) につっこむ (春) ハイクマシーン(佐藤文香・上田信治)で、「遠足」という季語にもつっこんだことだった。

春、秋によく行われるが、野遊、踏青などとの関連で、春の季語となっている。学校、会社、工場、官庁など、さまざまのグループの遠足があり、団体で、景色のよいところ、史跡、遊園地などに行き、遊び、弁当を食べてくる(中略)最近はバスがよく使われるが、自然にふれて弁当を食べて帰るのは、いかにも春らしい楽しい行事である。

そうだ、生翻車魚は遠足だ。
遠足といえば、おやつだ。
100円ショップで、薄いブルーシートとビスコ、ココナッツサブレを買って行った。

  目玉焼を鋏で切つて遠足へ  文香

関さんの森は本当に森だったので、明るくひらけたところはなく、関さんの森アスレチックという名の木の遊具の横に、薄いブルーシートを敷いて、おのおの弁当を広げた。ごしゅもりさんと関さんは買ってきた弁当、トオイさんと私はつくってきたおにぎりと少しのおかず。おやつは私しか持ってきていないかと思ったら、関さんがルックチョコレート、ごしゅもりさんがマシュマロを持ってきていたので、ココナッツサブレを開けるのはやめて、ビスコを開けた。私はビスコが好きで、大人になってからもたまに食べる。今回持参した味は「発酵バター仕立て」である。


おやつを食べ終わったころ、作業着のおじさんが現れた。「関さんの森ってあるから入ってみたんですが」とおじさんは言う。われわれも関さんの森初体験なので「とくに何があるわけでもなさそうですね」と返す。このへんの人かと思ったが、この森を知らないということは、どこかから仕事のためたまたま訪れたということだろうか。おじさんはあたりを見渡している。われわれはもう少し奥まで行ってみようと、腰を上げた。

「あー腹いっぱいや」とのびをしながら私が言ったら、おじさんが「何か残しといてくれたらよかったのに」と言う。「ビスコいりますか?」と聞くと「あるならもらいます」と、人懐っこいおじさんだ。ビスコの箱には小分けの袋が3つ入っていて、みんなで2袋食べたので、1袋余っていた。その袋をあげると、「ありがとうございます、お腹すいてたんです」と言って、さっそく袋を開けた。このおじさんは知らない人にもらったものを食べちゃいけないと習わなかったのだろうか。おじさんは、「ははあ、1袋にいくつも入ってるんですか」と言いながら食べ始めた。おじさんは、ビスコを知らなかった。

われわれはおじさんと別れ、森を奥に進んだつもりが、別の出口にたどりついてしまい、その出口にはさっきのおじさんがいた。「まっすぐ伸びてますね」とおじさんが呼びかけてきた。なんのことかと思ったら、大きな木が途中で折れ、地面と平行に伸びているところから、地面と垂直にどんどん枝が伸びているのだった。

  篁の湿りを春の鴉どち  文香