2023年2月15日水曜日

見に「行く」こと(最近の展示6つ)  佐藤文香

 私は読書が苦手だ。座っていることが苦手だからだろう。よってとにかく書籍からのインプットが著しく乏しい。こういう人間は出歩いて何か新しいものを摂取するしかない。

美術館等で展示を見るのは、基本的に歩きながらできるので、自分にとってはそれがいい。さらに、美術館に行って帰るというのも運動である。ここ最近の展示を見に「行く」という運動と、展示の感想を一言ずつ書いておく。


1/25 府中市美術館
諏訪敦「眼窩裏の火事」

・行きは高円寺から武蔵小金井に出てそこからバス、帰りはバスで府中へ出て京王線、というぐるっとコース。武蔵小金井のスタバで少し仕事を進められたのがよかった。文章仕事は基本的にスマホで書いている。荷物が重いのが嫌いだ。できれば鞄には本を入れたくない。

・見えていて、見えたように描けてしまうことの神秘を思った。イカと豆腐が好きだった。


1/26 東京ステーションギャラリー
特別展「佐伯祐三 自画像としての風景」

・ちょうどその日は宝塚星組の観劇日で、チケットを受け取ってステーションギャラリーへ行き、東京駅でマグロ丼を食べて東京宝塚劇場に戻った。マグロ丼はぼったくり価格で、日本酒も付けてしまったが、それもぼったくり価格だった。東京駅にはがっかりだ。星組公演は素晴らしく、号泣した。礼真琴の真骨頂であった。

・佐伯祐三はこれまでも数点を見て気に入っていたが、まとめて見るのは初めてだったのでえらく感動した。私も二年間下落合に住んでいたので、少し親近感も湧いた。対象物の把握の速さがかっこいい。お金があったら作品を買うと思う。最初から最後までほぼ同じペースで見ていた男性がいて、その人も図録を購入していた。思わず声をかけそうになった。


1/31 東京国立近代美術館
大竹伸朗展

・竹橋ということで、知り合いの方に教えてもらって、展示を見たあとにランステーションで着替えて皇居ランにチャレンジ。1周5kmを2周走った。プロントでビールを飲んで帰宅。久しぶりにプレミアムモルツの香るエールを飲んだらうまかった。展示を見て走って酒を飲む、考えられる限り最も素晴らしい一日の過ごし方だと思う。次回は3周走るつもりだ。

・大竹伸朗は宇和島で活動しているということもあり、見ておかねばならないような気がした。圧倒的な作品量で、これだけつくり続けられるタフさというのがすでに才能だろう。が、ふつうにうまい人でもあり、私はそこが好きだ。


2/4 世田谷文学館
月に吠えよ、萩原朔太郎展

・珍しく土曜に配偶者のタカシと行った。世田谷文学館は芦花公園駅が最寄りだが、千歳烏山からもそこまで遠くない。それに千歳烏山は急行が止まるというよさがある。タカシは昔千歳烏山に住んでいたので、帰りに少し散歩した。暮らしやすそうな街だった。
タカシが職場に行くというので先に帰った。タカシは職場だけでなく日比谷にも寄って、宝塚のBlu-rayを買って帰ってきた。いつも私に相談なく買ってくる。素晴らしい配偶者だと思う。

・萩原朔太郎には今まであまり興味を持ってこなかったが、お兄さんに対する手紙だったかに、植物に対して欲情したような話が書いてあって(記憶違いだったらすみません)、それが面白かった。TOLTAの展示というかんじでもあった。


2/9 日本近代文学館 「新収蔵資料展 同時開催 萩原朔太郎大全2022」
日本民藝館 「生誕100年 柚木沙弥郎展

・詩人のOさんと一緒に行った。ランチは詩人のAさんもご一緒に。文学館内のおしゃれカフェはおしゃれなだけでなくご飯もおいしかった。Oさんとはそのあと民藝館にも行った。平日日中散歩可能な友人は貴重である。

・文学館の新収蔵資料には尾崎紅葉「寒詣翔けるちんちん千鳥かな」(斎藤松洲画)があり、それを見ることができたのがよかった。高山れおな『尾崎紅葉の百句』(ふらんす堂)にも入っている句。その他では「動物文學」という雑誌がよかった。今も雑誌が刊行され続けていれば、寄稿したかったなと思った。

・柚木沙弥郎は青地に白い山羊(であっていただろうか?)のがよかった。最近は器にも興味が出てきている。海鼠釉が好きだと思った。ミュージアムショップで散財しそうになるのをおさえたのに、帰りに駒場のおしゃれパン屋でおしゃれなパンを買い、帰ってバカ食いしてしまった。

これだけ短期間にいろいろ展示を見て回れるというのは、単に暇だからではあるのだが、肝心の展示自体をしっかり見ていないからでもある。毎度詳細に見て感銘を受けていたら、こういうことにはならないだろう。自分は「展示空間を歩き回りに行く」ために行っているので、今後も月に二つか三つは行きたいと思っている。

  また美術館行かうまた蝶と蝶  佐藤文香