第1回【稲畑汀子俳句集成読書会 #わたしの汀子俳句】
1/22(日)17時~ オンライン配信
ホスト 稲畑廣太郎
ゲスト 堀田季何、村越敦、山口亜希子、今橋眞理子、佐藤文香
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そこで今回はじめて稲畑汀子の全句を読んだ。読書会のテーマは「音」で、すでに参加者として10句選を提出しているので、そこから漏れた今回のテーマ外の作品で、楽しいものを少し紹介したい。
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秋晴や遊ぶプランは控へ目に 〃
夏休みプラン通りにいかぬもの 〃
若き日の汀子、「プラン」という語が好きなのかもしれない。好きというか、身に染み付いているというか。「計画」とかにもできそうなところだが、「プラン」。かわいい。
まだ応へくれぬ花芽に宿予約 『花』
ひそかにも京の紅葉を見る予約 『風の庭』
集成の終わりの方には「予約」という言葉も出てくる。常にプランを把握し予約をし、といった仕事のできそうな人物像が見える。
私は汀子さんとちゃんとお話ししたことはないが、ビールの似合うような人だなと思った。
軽くのどうるほすビール欲しきとき 『汀子第二句集』
誰彼にビールが好きと思はれて 〃
ミュンヘンのビールにしばし禁酒解く 『汀子第三句集』
どの句も心がほぐれ気持ちいいビールの句だ。とくに「誰彼に」の句には切れもなく、こういうゆるさは嬉しい。
最後の句からの禁酒つながりで、
禁酒解きたまへ一献菖蒲酒 『さゆらぎ』
熱燗や禁酒守りて久しかり 〃
蚕豆を摘みて禁酒守りけり 『風の庭』
蚕豆を摘みて禁酒守りけり 『風の庭』
禁酒してそれを解いたり、禁酒している他の人に酒をすすめたりしているようだが、最後の方はどうやらちゃんと禁酒を守っているようだ。えらい。
お酒だけでなく、昼寝も好きらしい。
訪ね来し人にもすゝめ昼寝かな 『汀子句集』
昼寝するつもりがケーキ焼くことに 〃
昼寝(旧字)するほかなき睡魔身ほとりに 『汀子第二句集』
昼寝してゐて正体をまだ見せず 『風の庭』
昼寝するつもりがケーキ焼くことに 〃
昼寝(旧字)するほかなき睡魔身ほとりに 『汀子第二句集』
昼寝してゐて正体をまだ見せず 『風の庭』
家に来た人に昼寝をすすめたのが汀子本人かどうかはわからないが、訪ねてくる人というのはふつう用事があって来ているわけで、昼寝をすすめられても困るのではないか。それとも客人もただだらだらしに来ただけなのか。稲畑邸で昼寝するのは気持ちよさそうではある。
毛皮の句も見てほしい。
過分とも思ひし心毛皮買ふ 『汀子句集』
買ふことに決めし毛皮や吾れのもの 〃
毛皮着て心豊かになる思ひ 〃
毛皮著る時の出先を考へて 『汀子第三句集』
毛皮著てしまへば出掛けられさうに 〃
毛皮著る時の出先を考へて 『汀子第三句集』
毛皮著てしまへば出掛けられさうに 〃
『汀子句集』の段階では、高価であっただろう毛皮を手に入れたよろこびが感じられるが、『汀子第三句集』の時期は、すっかり日常になっている。毛皮夫人。いい暮らしが似合う人だ。
ここまで、「プラン」「予約」「ビール」「禁酒」「昼寝」「毛皮」の句を挙げたが、これらの語に共通していることとして3拍であることが挙げられる。
これほどに降れば秋めくこと期待 『汀子第二句集』
散る紅葉散り敷くまゝにある配慮 〃
散る紅葉散り敷くまゝにある配慮 〃
楡ポプラその緑蔭を来し旅情 〃
滝しぶき水に戻りてゆく仔細 〃
蚕豆に一本つけぬこと不服 『さゆらぎ』
蚕豆に一本つけぬこと不服 『さゆらぎ』
3拍の言葉(「芒」や「夜空」など)で終わる句は他の作家でもさして珍しくないが、こういった概念をラスト3拍で述べる句は特徴的だ。「旅情」以外の語はさして風情のあるものでもなく(「旅情」だって、俳句をやっていたらあまり句のなかでは使わない言葉のひとつだ)、こういった一般語をカジュアルに詠み込むというのは面白い。
漢語には4拍の語が多いので、重々しい句、難解な句は4拍がベースになっていることが多い。対して汀子が句の主役として用いる3拍の単語は、言いさしの雰囲気や跳ねるような気分があり、そこからもこの作家らしさを感じ取れるのではないだろうか。
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「音」のテーマから外れた句を挙げていたつもりが、書いているうちに結局音の話になってしまった。というわけで、こういったことを話す時間があるかどうかはわからないが、お時間に余裕がある方はぜひ読書会にご参加ください。
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