帰国まで2ヶ月半。アメリカ生活をエンジョイしているように見えるようにしているが、実際はつらい日も多く、毎日帰りたいと言って配偶者を困らせている。ただ、7月後半からはかなりバタバタと旅行などが立て込むので、そんなことを思う暇もないだろう。
1年くらいで何だ、と言われるかもしれないが、帰国したらまず行きたいのは、やはりよく行っていた飲食店だ。和食が食べたい日本酒が飲みたいというのもあるけれども、とにかくいつもの店に行って安心したい。場所で言えば高円寺や新宿、吉祥寺などにまず行くだろうし、松山と鹿児島に帰省もしたい。なぜか母校にも訪れたくなった。あとは、まだ行ったことのない店や地方にもどんどん行きたい。日本国内なら、ひとりでどこにでも行けるのがいい。そこで知っている誰かや、まだ会ったことのない誰かに会えるとなおよい。
それとは別に、特別でない近所の特定の場所に行きたい、と思うこともある。今回はそれを書いておくことにする。
○銭湯
いかにも日本が恋しい人のようで気がひけるが、最近は銭湯に行きたい。家の風呂に浸かれていないのもそうだし、何より時間を気にせず裸であたたかいところを歩きたい。
実は7月現在のここバークレーの気温は、最高気温が22℃・最低気温が13℃程度。午前中は曇っていて20℃にならず、午後は日差しが強く、日が落ちるとまた20℃を切る日が多い。雨もほとんど降らず、とても快適で過ごしやすいのだが、午前中や夜に半袖でいると体が冷えてしまう。私は冷え性の薄着好き、しかも日差しにもクーラーにも弱いので、26℃くらいの夜の外気が一番好きで、そんな日はまだ一度もない。せっかく買ったヘソ出しの服も、まだほとんど着られずにいる。それもあってか、「裸(同然の格好)をしていて寒くない」というのに飢えている。銭湯や温泉に行ければ、それがかなうのになぁと思っている。
散る花のはだへ湯冷めに憧れて 「Winged Unicorn」
できれば湯冷めはしたくないが、湯船に浸からないと湯冷めすることさえできない。「はだへ」は「肌」のこと。
○セブンイレブン
セブンイレブンは、アメリカにもあるにはある。しかし、日本と違って治安がよくないということもあり、実は一度も入ったことがない。売っているものもだいぶ違うようだ(帰国までに一度くらいは入ってみてもいいかもしれない)。
セブンイレブンの麻婆丼とか、小さいお惣菜とか、菓子パンとかデザートを、適当に買って帰って食べたい。ああいうものはこっちには全然ない。スーパーで手軽に買えるサラダも基本的に2人分くらいの量があるし、量り売りのミートローフとか鶏肉ローストは買うし美味しいけれど、パスタなどはボリュームがありすぎて、気軽な気持ちでは買えない。甘いものも甘すぎるのが怖くて、ヨーグルトとチョコレート、餅アイスしか買わない。カロリーが低いのに美味いものとか、美味いものをちょっとだけ、とかを気軽に買いたいのだ。200円程度で新商品を試したりもしたい。200mlの豆乳飲料も飲みたい。
また、夜になるとほとんどの小売店は閉まるので、夜のコンビニに歩いて行って、どうでもいいものを買って帰る、みたいなこともできない。特に、アメリカでは酒を飲みながら歩くと捕まってしまうのが致命的である。夕方コンビニで缶ビールを買って、適当なベンチで飲みたい。
缶麦酒の別れに秋の鴨の列 「鏡」41号
という句を、出国前に書いた。コロナ禍のせいもあってみんなでわいわいやることができなかったので、仲のいい人と会っては、善福寺川あたりで缶ビールを飲んでいたのだ。日本ではまた流行っていると聞く。うまく帰国できるといいのだが、隔離などもあるかもしれない。鴨はソーシャルディスタンスを取らなくてもいいので羨ましかった。
○ドトール
現在バークレーでもかなり便利なゾーンに住んでいるので、カフェにはまったく困っていない。が、懐かしいのはドトールである。暇なおじいさんが新聞を読んでいるようなドトールに、トイレに行って20分休憩するために入るくらいのかんじが懐かしい。こんなに無職が一人で行きやすいカフェは他にない。
ドトールを数度利用したことのある方ならおわかりかと思うが、
椅子にかける上着やミラノサンドA 『菊は雪』
この句はもちろんドトール俳句だ。ミラノサンドは期間限定のものもあるが、ハム3種のAが一番美味しいと思う。いつも使わない駅でも、駅前にドトールがあるとほっとする。
ちなみに、帰国したら懐かしくなるだろうカフェはピーツコーヒー。ノースバークレーが発祥のチェーン店で、ダウンタウンの店にもノースバークレーの1号店にもよく行く。こちらのカップのサイズが大きいというのもあるが、最近は胃がどんどん弱くなって、アイスコーヒーやホールミルク(脂肪をカットしていない牛乳)のカフェラテなどはもうあまり飲めなくなってしまったが、頼むものを工夫しつつ、日々お世話になっている。
そのほか、ミスドでハニーディップと飲茶を注文したい、ナチュラルローソンでハモンセラーノととうもろこしのひげ茶が買いたい、KALDIでお値打ちワインともへじ(メーカー名)の新しい商品を探したいなど、言い出したらキリがない(カラオケも行きたいが、カラオケはバークレーにもあり、帰国までにどうにかして一度行こうと思っているからそれについてはまたどこかで書きたい)。あとはふつうの、あまり大きくないスーパーにはやく行きたい。シャウエッセンや6Pチーズ、超熟、豚肉しゃぶしゃぶ用なんかを買いたい。それぞれのロットが小さいのが懐かしい。たくさん買ってもひとりで両手で持って帰れる買い物がしたい。
そういった気持ちはすべて、「安心したい」や「だらだらしたい」に繋がる。まだ危険な目に遭ったことはないけれど、危険な雰囲気の場所があったり怖そうな人もいたりするから、やっぱり緊張しているのだろうなと思うし、美味しいものはたくさんあるけれど、太らないように食べることにかなり気をつかっている。はじめて見るものや新しい組み合わせが好きで、こたつで蜜柑とか緑茶と和菓子、みたいな定番のほっとするアイテムに対してこれまでほとんど魅力を感じてこなかったけれど、そういうもののよさを人生ではじめて理解できるかもしれない。そして、有季定型の地味な俳句を書くようになるかもしれない。