2021年7月16日金曜日

『菊は雪』 俳句に詳しくない読者の方のために  佐藤文香

『菊は雪』を手に取ってくださった方のなかには、俳句全般には詳しくないけれど佐藤の作品を能動的に読みたい、と思ってくださる方がいらっしゃる可能性が、ゼロではないものと思われます。

俳句というのは、いや、言葉による創作というのはほとんど今まで用いられてきたもののコピー&ペーストでありますので、たくさんの言葉をさまざまな文脈で都度理解してきた方の方が、作品の理解が早かったりいろいろなことに気づく可能性は高いでしょう。ですが、俳句に詳しい人の方が、俳句をあまり知らない人より、”俳句が読める”人とは限らない。少なくとも、私の俳句については、そんな気がしています。

そこで、今回の句集のなかでとくにはっきりと意識して他の作品からいただいてきた言葉や気分があるものに関して、そのもととなっている作品をここに書いておきます(単純に単語をいただいてきたという以上には見えないものもあるかもしれませんが)。「菊雪日記」に書いたとおり、はっきりとオマージュの対象となっている作品はかなり有名なものが多いので、俳句の人からすれば野暮の極み、お笑い草間違いなし。さらに、無意識のうちに参照している先人の作品や、心をともにしているような同時代の作家の作品もあるかもしれませんが、それに気づくような人とはとりあえず今度一緒にお酒を飲みたいです。

私は、自分の尊敬する友人たちと比較すると、あまり多くの俳句を知らないので、私みたいな人の気持ちがわかります。たくさん作品を知っていて元ネタを指摘できる人の方がすごいみたいに見えてしまったり、自分は読者としてふさわしくないのかなと思ってしまったりして、なんか、淋しい。私はどちらかといえば、そういう人に寄り添いたい気持ちがつよいです。

だから、どんな方でも、下記の作品を『菊は雪』の句と比べていただいて、あーだこーだ思っていただければ幸いです。ここで面白いと思った作家がいれば、その人の作品を読んでみるのもいいじゃないですか。というか、私にとってそれ以上の喜びはありません。作者名をクリックすると、読みやすそうな書籍にジャンプするようにしてみました。まだ句集を読んでいないという方も、下記の句を見て気になったら、どこかで手に取っていただけると嬉しいです。

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頁数/何句目の作品に関わるか 

 p10/2 
帰り花鶴折るうちに折り殺す  赤尾兜子 

 p11/1 
あなたなる夜雨の葛のあなたかな  芝不器男 

 p11/3 
思惟をことばにするかなしみの水草をみづよりひとつかみ引きいだす  川野芽生

 p71/2 
未だ逢わざるわが鷹の余命かな  池田澄子 

 p75/3 
飛驒の
山門(やまと)
考へ杉の 
みことかな  高柳重信 

 p94/1 
蛸壺やはかなき夢を夏の月  芭蕉 

 p94/4 
分け入っても分け入っても青い山  種田山頭火 

 p106/3 
銀座銀河銀河銀座東京廃墟  三橋敏雄 

 p116/1 
春すぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山  持統天皇 

 p124/3 
「楽しき納涼園 五句」  渡邊白泉 

 p137/2 
みちのくの星入り氷柱われに呉れよ  鷹羽狩行 

 p162/1,2(前書きの句) 
旅の旅その又旅の秋の風  正岡子規 
面白やどの橋からも秋の不二  正岡子規