2020年4月15日水曜日

俳句無酸素運動説  佐藤文香

承前 CARE; 2019.4.12 マラソンと自己肯定感

「なんでそんな速く走りたいの?」

「速く走るとさ、それ以外のこと考えられへんようになるやん。ラップタイムと残りの距離しか見られへんし。有酸素運動は雑念が多いねん。いっつも考えごとしてるから、だらだら走ると日常生活の続きになってしまう」

「でもゆっくり走っていろいろ考えてるうちに俳句できたりするんやない?」

「いや……今わかったけど、いろいろ考えてるときは俳句できへんな。俳句モードんとき、なんか今息止まってんちゃう?みたいなことあるわ。真空のなかで俳句書いてるみたいな。そういう意味では全速力で一定の距離走るのに近い気する。
私さ、短距離は別にそこまで速くなくて、50mのベストタイム8秒0やねんけど、その人が50m12秒の速さで2km走ったらほぼ全速力やない?中学高校のときそんくらいやってん。
あ、それで言うと、50m走って咄嗟に1単語出すくらいかも。2kmが俳句で、短歌は5kmくらいなかんじする。2kmと5kmはさ、ギア違うねん。やっぱ5kmになるとある程度有酸素運動的な走り方せんと無理やし、だいたい5kmは飽きる。1km5分で走れたとしても5km走ったら25分かかるやん?25分は私には長すぎるわ。
今日がんばって3km14分25秒で走れたけど、やっぱ俳句は体感として本気で10分走るくらいやと思う。やから私は中距離走と俳句が好きなんやな」

「おもしろいな」

「てか、一所懸命なんかやるんってあほやん。まわり見えへんなるし。本気で心込めるとかも、普通に考えたら恥ずかしいやん?それができるんはあほやし、あほやないといいもんつくられへんみたいなとこある。
走るんでいえば、がんばって走ったらしんどくなって、そのあとランナーズハイになって、そっからさらにがんばるとめっちゃ苦しくなるねんけど、そこで脚だけ速く動かすねん。そのかんじが好き。胸と脚を分けて考えるねん」

「それって漫画で走ってる絵の、脚の部分がぐるぐるってなってるやつみたいなことやろ?やっぱ速いってあほやな!速いってすごい」

「な?速いんはいいねん」