階段を降りてすぐのところに、何駅は何号車が出口に近いかの表示があり、神保町で外に出るには3号車が適切と理解し、自分が今いる場所は2号車が停まるところだと見てわかったので、少し歩いて3号車の停止位置の前に立った。
線路の向こう側の壁に、ホームが狭くなっておりますので広い場所でお待ちください、と貼り紙があるが、そんなに人もいないので壁にもたれて晩ご飯を何にしようかと考えながら待っていた。
線路になにか動きが感じられ、視線を下ろすと鼠の形である。その鼠が消え、すると線路の下を、やはり線路とほぼ同じ色の鼠が通り、向こう側の網で覆われた小さな穴へ通過したそうだが網は潜れず、そうする間にさきほどの鼠も現れた。
二匹並ぶと、網を抜けようとした鼠よりさきに見た鼠の方が一回り大きく、今度は小さい方を大きい方が追いかけるように、線路の下を線路と並行に走って行った。そのさきが明るくなり、半蔵門線の紫が来た。鼠はもちろんひかれたりはしないのだろう。
電車に乗るとひとつ席が空いていたが、大柄な女の大袈裟なスプリングコートが空いた席を存分に陣取っていたから、私は銀の手摺を摑んで鼠のことを感じていた。