2023年2月1日水曜日

思ふことなくて   佐藤文香




思ふことなくて   佐藤文香 

松過の京都のバスのうすみどり 
鵜の嘴の付根の黄なる睦月かな 
ひとところあをきは寒の小倉山 
稜線をなす一木や遠く枯る 
せり出せる枝の寒さも桂川 
あらたまの若く色濃き波ならむ 
波寒し一羽搏きの胸際を 
鴨七羽水面に散りてしづかなり 
寒晴や中洲に松の惹かれ合ふ 
寒禽の空のゆるびを繕はむ 
香を聞く黒目に雪の映らざる 
小匙にて喰ふこのわたの茶碗蒸 
凍星に芽吹の枝の白むとき 
月渡る窓に小指を冷やしけり