なんという霧にまかれていて思う 福田若之
「なんという(こと)……!」、霧にまかれていて、思う。上五で切る。これがナチュラルな読み。
霧のなかのこの世界とは……!、または何かの報に接して、なんという……、と思った。
ここで、作者が思ったことはきっと〜などと推測するのは、この句から離れる。あくまでも、「……!!」の感覚。
そこに、上五で切らずに「なんという霧……!」、そんな霧にまかれていて(何かを)思う、という読みも併走させる。
さらに、なんという(名の)霧なのか、そこでこの人は何を思ったのか、とも考えてみる。当然、霧に名はない。
いずれにせよこの句には、霧と、思うことしか出てこない。
だから私は、霧のことを、そのうちがわにいるこの人の心のことを思う。
自分の輪郭があやふやになっても、まかれて「いて」思う、この「いて」のところに、存在がある。思っている内容がわからなくても、〈思う〉という心の動きだけははっきりしている。あとは霧。どこの霧かはわからない、どこからも切り離されているようなかんじだけれど、ミストのかんじはわかる。
匿名性と実存。